太田述正コラム#941(2005.11.10)
<日本が破綻させた日米韓同盟(その2)>
3 破綻した米韓同盟
(1)米韓同盟の現況
今春、韓国政府は米国に対し、「在韓米軍を朝鮮半島有事以外に投入する時は韓国の許可を求めるよう」主張しました。その背後には中共当局の意向がかいま見えます。
9月には(朝鮮戦争の英雄)マッカーサーの銅像撤去騒動が起こり、米国の議員等の顰蹙を買いました(コラム#871)。
また、10月21日、ソウルで開かれた米韓定例安保協議で両国は在韓米軍の持つ韓国軍の「戦時作戦統制権」の返還問題に関し、「協議を適切に加速化させる」ことで合意しました。これは「主権」の回復を叫ぶ韓国政府に対し、米側がしぶしぶリップサービスを行ったもの、と受け止められています。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.nikkei.co.jp/neteye5/suzuoki/index.html(11月7日アクセス)による。)
次の米大統領選挙での民主党候補者に擬せられているヒラリー・クリントン米上院議員は、10月25日、米上院で、「朝鮮戦争以来の韓国の目を見張るような経済的成功に果たした米国の役割には大きいものがあった。このことを韓国が認めないのは、「歴史健忘症」と言ってもよい。」と発言し、韓国で波紋を呼びました。
米国のリーダー達の間での韓国に対する怒りがいかに高まっているかがうかがえます。
(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200510/200510260015.html(10月27日アクセス)による)。
朝鮮日報は、韓国政府が米韓同盟を解消させる方向に向けてあらゆる政策を全力で遂行している以上、米国が韓国に対して怒るのはもっともだ、と論じています(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200511/200511020030.html。11月3日アクセス)。
(2)韓国の米国離れの原因
日本経済新聞の鈴置高史編集委員は、韓国の米国離れをもたらした原因として、「宗主国」米国への反発、対北朝鮮太陽政策、対支事大主義の再発、の三つを挙げ、その中でも最後の対支事大主義が大きいのではないか、と指摘しています。
韓国の知識人は、しばしば、「日本からは36年間植民地支配を受けた。米国の保護を受けたのは60年間。だが、中国を宗主国にいだいたのは数百年」と語るとし、歴史的かつ地理的に韓国が感じる、巨大な隣国支那からの「引力」と「圧迫感」は、支那が経済的軍事的に「再生」しつつある現在、日本が支那に感じる「引力」と「圧迫感」とは比較にならないくらい大きい、というのです。
(以上、日経サイト上掲による。)
私もその通りだと思います。
(3)責められるべき日本
ア 中共に対して
韓国の対支事大主義の再発については、中共による画策も無視することはできません。
中共は修正史観を提示することによって、韓国の対支那事大主義をかき立てようと画策してきた(コラム#141、142、274。事大主義については、コラム#406も参照)ところです。
さんざん中共当局から日本が「正しい」歴史認識を持つように要求されてきた経緯があるのですから、本件ではお返しに、日本や英米の歴史学界をも巻き込む形で、日本政府として中共に対し、日本史やベトナム史同様、朝鮮半島史も支那史の一環ではない、というスタンスを明確に打ち出すべきなのです。
イ 韓国に対して
また、日本政府は韓国に対し、朝鮮民族の対支事大主義(対支一辺倒)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて東アジアの国際環境の不安定化をもたらしたのと同様、21世紀初頭の現在においても、東アジアの国際環境の不安定化をもたらす懼れがある、と米国政府と連携して(注3)警鐘を鳴らすべきなのです。
(注3)英米のメディアは、かねてよりこの種懸念を表明してきている(コラム#274)。
ウ 米国に対して
更に日本政府は、米国の朝野に対して、韓国が宗主国として許容できるのは、歴史的地理的に支那だけであり、かつての宗主国である日本に対する韓国の反感と、現在の「宗主国」である米国に対する韓国の反感は、同質のものであってそれなりに理解できることを指摘し、余り過敏に反応しないように自制を促すべきなのです。
エ 責められるべき日本
ご承知のように、以上のいずれも日本政府はやろうとせず、ただ成り行きを見守っているだけです。
安全保障を米国に丸投げする、という吉田ドクトリンを、この期に及んでいまだに墨守しているわけです。
しかし、米国は19世紀から20世紀にかけて東アジアにも覇権を及ぼそうとし、その結果が、日本の地域覇権の粉砕、及びそれと表裏の関係にあるところの、現在の中共と北朝鮮という専制国家の誕生であり、米国の植民地となったフィリピンの経済的低迷と政治的不安定です。
これだけの大失敗をしでかした、東アジアの土地勘に乏しい米国に、戦後、旧日本帝国領たる日韓台の安全保障を全面的にゆだね、その保護国としての地位にあえて甘んじてきた日本でしたが、日本は、とっくの昔に米国の負っている重荷を米国と共に担ってあげてしかるべきだったのです。
それをしなかったツケが、米韓同盟の破綻となって現れている、という自覚を日本の朝野にぜひ持って欲しいものです。
(続く)