太田述正コラム#955(2005.11.19)
<フランスにおける暴動(その6)>
これは、私の見解を申し上げているのではなく、フランスの非移民の人々のホンネを代弁しているつもりです。
暴動が鎮静化しつつある現在、このホンネの一端がフランスで噴出してきました。
口火を切ったのは、ラルシェ(Larcher)雇用相であり、移民(注7)の間で見られるところのイスラム教に由来する一夫多妻制が今回の暴動の原因の一つだ、と述べたのでした。
(注7)遅ればせながら、フランスにおける移民についての推計値を披露しておく。
移民イコールおおむねイスラム教徒であって、合計約500万人。1,600のモスクがあり、パリ・リール・リヨン・マルセイユ等の大都市に多く固まって居住。うち、アルジェリア出身が35%、モロッコ出身が約25%、チュニジア出身が約10%であり、以上が北アフリカ出身者。残りがマリ・セネガル等のサハラ以南アフリカ出身者、ということになる。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4430244.stm。11月17日アクセス)
次に登場したのは、シラク大統領率いるUMP党の議会内指導者であるアコイェ(Bernard Accoyer)議員であり、同趣旨のことを述べました。
その次は、(私が昔ソ連の少数民族問題についての彼女の著作を読みふけったことがある、)著名な歴史家でアカデミー・フランセーズ事務局長のダンコース(Carrere d’Encausse)女史であり、移民の子供達が学校に行かずに通りでぶらぶらしているのは、一夫多妻制のために家に4人の奥さんと25人の子供がいたりして誰も面倒を見てくれず、居場所もないからだ、と語ったのです。
既に何度もこのシリーズに登場したサルコジ内相ですら、その文化、その一夫多妻制、その社会的出自からして、北アフリカやサハラ以南のアフリカ出身の移民は、(サルコジ自身がハンガリーからの「移民」の子だが、)スェーデンやデンマークやハンガリー出身の「移民」の子供より多くの問題を抱えている、とストレートに暴動に結びつけない形で語り、この議論に一枚加わりました。
ちなみに、フランスにおける一夫多妻制の家庭は、1万から3万にのぼると推定されています。フランスでは前から一夫多妻制は違法なのですが、1993年までは、第二妻以下へのビザが与えられており、自由にフランスにいる夫のもとへやってくることができたといいます。なお、それ以降も不法に入国する第二妻以下が後を絶たないようです。また現在でも、第二妻以下及びその子供達であっても、社会福祉の対象になっています。
(以上、http://news.ft.com/cms/s/d6f1fe0a-5615-11da-b04f-00000e25118c.html(11月17日アクセス)、及びhttp://www.nytimes.com/2005/11/17/international/europe/17cnd-france.html?pagewanted=print。(11月18日アクセス)による。ちなみに、この二つの記事を読み比べて欲しい。FTに比べていかにNYタイムスの記事が杜撰か一目瞭然だ。)
しかし、一夫多妻制の家庭の数からみて、この問題を、今回の暴動の主要原因の一つとしてあげつらうことは、どう考えても腑に落ちないと思うのは、私だけではないでしょう。
そうです。一夫多妻制を問題にしている人々は、一夫多妻制を認めているイスラム教そのものを問題視しているのだけれど、さすがにこのホンネのホンネを口にすることがはばかられて、口にしていない、と解しうるのではないでしょうか。
全く同じことが、今回の暴動に対するアラブ・イスラム世界の論調の一部に見られる、移民側にも問題ありとの指摘(下掲)からも言えそうです。
「クウェートのアフマド・アルラビ前教育相<は、>・・(フランスの)アラブ系社会の内部は無秩序状態。今回の事件はそれを証明した。指導力を発揮する者が誰もおらず、事態を沈められる権威はどこにもない」とアラブ系社会が市民社会として成熟していない状況を痛打する。前教育相は、フランスのアラブ系住民が世論形成できるよう組織化を進め仏社会で役割を果たす努力をすべきだと提言。そのためには、「アラブ系住民が仏国民らしく振る舞い、仏社会にとって不可欠な存在であることを証明しなければならない」と勧告している。さらに、・・サウジアラビア<の>・・コラムニストのアリ・サアード・ムーサ氏は、・・「仏政府だけを非難するのは間違っている。アラブ人は他者と文化的に衝突し、自分たちの共同体に逃げ込んでしまうから、相手もそうなってしまう」「今日、アラブは世界文化の軌道から外れて、独りだけで回転している」とアラブ系移民の閉鎖性を批判、その閉鎖性が今回の暴動で噴出する格好となったとの見解を表明している。」(http://www.sankei.co.jp/news/051117/kok016.htm。11月17日アクセス)
この二人のアラブ人有識者の移民批判は、読んでお分かりのように、同時に自己批判であり、しかも、それこそ口が裂けても言えない隠されているホンネは、イスラム教批判だ、と私は解しています。
イスラム教そのものに問題があることは、西欧の移民(このシリーズでは、非白人移民という限定的な意味でこの言葉を用いてきた)の大部分はイスラム教徒であるところ、西欧では、これまで暴動らしい暴動が起こったことがない国でも、フランス同様、移民の若者の失業率は、おしなべて非移民の若者の失業率の約2倍であることからだけでも推察できようというものです(注8)(FT上掲)。
(注8)ちなみに奇しくも、米国の黒人の若者の失業率も白人の若者の失業率の約2倍だ(FT上掲)。