太田述正コラム#956(2005.11.19)
<フランスにおける暴動(その7)>
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<ちょっと一休み>
フランスにおける暴動シリーズを書き始めて以来(、購読者数は、殆ど動かないまま、)ブログへのアクセス数(、そして恐らく、私のホームページの時事コラム欄へのアクセス数)は顕著に増えて現在に至っています。しかも、明らかにこのシリーズへのアクセスが中心です。これはフランスの話だからなのでしょうか、それとも差別の話だからなのでしょうか。
もう一つ、改めて気がついたのは、私のコラムの読者の中にフランス在住の方が沢山おられ、しかも、従前から活発に私のホームページの掲示板に投稿されてきた方の中にフランス在住者が多い、ということです。米国在住者の読者の方がはるかに多いはずなのに、投稿数はフランス在住者の方が圧倒的に多い気がします。
これは、一体どうしてなのでしょうね。
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イスラム教がイスラム世界の停滞と、移民先でのイスラム教徒達の貧困と失業もたらしていることについては、以前に(コラム#24で)申し上げたところであり、移民の受け入れ国としては、アファーマティブアクションを通じて、イスラム教徒達の憤懣の爆発である暴動を防ぐくらいしか手はありません。
今回の暴動のおかげでフランス政府は、(イスラム教徒たる)移民を、問題を抱えているグループとして明確に認識し、把握した上で、このグループに係るアファーマティブアクションをとる、というしごく当たり前の対イスラム教徒対策・・フランス以外の西欧諸国や英国が既にとっている対策・・を遅ればせながらとることになったわけです。
しかし、これだけでは、イスラム教徒たる移民の貧困と失業そのものを解消することはできません。解消するためには、彼らのイスラム教を世俗化・近代化する(か、彼らをキリスト教徒に改宗させる(?!))しかありませんが、ケマリズム下のトルコならいざ知らず、受け入れ国政府がそんなことを試みることは僭越であり、不可能です。長い時間をかけて、イスラム教徒たる移民が、そのような方向に自然に変化して行ってくれることを期待するほかないのです。
いずれにせよ、銘記すべきことが二点あります。
その第一は、今回のフランスでの暴動は、(イスラム教がもたらした)貧困と失業への憤懣の爆発なのであって、イスラム教とキリスト教との文明の衝突、換言すればイスラム教徒を支配するキリスト教徒に対するインティファーダ(注8)でもテロ活動でもない、ということです。
(注8)インティファーダとは、もともとは、ユダヤ教徒(イスラエル人)によって占領され、支配されているイスラム教徒(パレステイナ人)の、イスラエル国家に対する蜂起のこと。
ですから、今回のフランスでの暴動は、先般の英国における同時多発テロ(コラム#792、803、804)とは、暴力行使の方法もたまたま全く違うけれども、そもそも質的に全く異なったものだ、ということです。
具体的に申し上げると、フランスでイスラム過激派の影響が強い地域は、全く今回の暴動には関わっていませんし、そもそも、暴動に加わった移民の若者達は、第三世代の「西欧化」した連中が中心であって、毎日決められた時間に礼拝をするより、軽いヤクやラップ音楽の方に関心のある者が多いのです(注9)。
(以上、http://observer.guardian.co.uk/comment/story/0,6903,1641413,00.html(11月14日アクセス)による。)
(注9)なお、厳密に言うと、今回の暴動に加わった移民の若者達の中には、イスラム教徒ではない黒人も含まれている。彼らを突き動かしたところの貧困と失業は、イスラム教がもたらしたものではなく、暴動を起こした1960年代の米国の黒人を突き動かしたところの貧困と失業と基本的に同じ原因がもたらしたものだ。ここでは、これだけにとどめておく。
その第二は、当たり前のことですが、イスラム教が常に停滞と、移民先における貧困と失業をもたらすわけではない、ということです。
相対的に世俗化し、近代化したイスラム教国であるトルコやマレーシアは、少なくともイスラム教世界的停滞からは抜け出していますし、米国のイスラム教徒は、貧困と失業どころか、その中位(メディアン)家庭所得は米国の平均家庭所得を上回っています。
後者については、米国のイスラム教徒の半分以上が大卒以上なので、当然と言えば当然なのです。これは西欧諸国が単純労働者を移民として受け入れる政策をとったのに対し、米国の移民法は金持ち・高能力者・高学歴者を優遇しており、高等教育を受けに来たイスラム教徒の多くが帰国せずに米国にとどまり、帰化してきた、という経緯があるからです。
(以上、米国のイスラム教徒事情については、http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/GK15Aa01.html(11月15日アクセス)による。)