太田述正コラム#958(2005.11.20)
<フランスにおける暴動(その8)>
7 どうしてフランスで暴動が起こったのか・・補足
(1)初めに
今回フランスで移民の暴動が起こった原因については、私は一貫してフランスの共和国原理・・多文化主義の完全否定・・にある、と申し上げてきたわけですが、補足的にその他の原因についても挙げておくことにしましょう。
(2)過度に中央集権的なフランス警察
補足的原因の第一は、既に言及してきたフランス警察の特異性です。
警察が、今回の暴動を通じて、銃弾を撃ちかけられはしたけれど、一発の弾も撃たないという抑制された対応をしたこと、しかも、非移民一人の死亡者だけしか出さなかったことは称賛されるべきでしょう。
しかし、フランスの警察が、米国のように(FBIなる国家警察もあるけれど、)一つ一つの市にそれぞれある地方警察が並立している形ではなくて、他の西欧諸国同様、国家警察一本であることはさておき、その運用が過度に中央集権的であるのは問題である、という指摘がなされています。
例えば人事ですが、全国で採用された警官は、自分の出身と違う場所・・通常まずパリ地区・・に配属されるので、その場所に土地勘もなければ愛着もないのが普通です。
また、フランス警察は、警察情報を国の手で一元的に管理しているので情報の精度は高いし、警察資源を一元的に管理しているので、捜査にも群衆規制にも長けています。しかし、情報が末端の警官によって共有されることはないし、日常的な警邏面において極めて弱く、従って犯罪予防面に遺漏がある、とされています。
ですから、移民の目には、警察は地域の一員ではなく、自分達に無理解な国家を代表する存在に映るわけです。
こうして、移民地域において、移民を呼び止め身分証明書の提示を求めるくらいしか地域対策手段を持たないところの地域に不案内の若者たる警官達と、低賃金にあえぎ、あるいは失業しているけれど地域を熟知している移民の若者達が、あたかもマフィアのように対峙する、という構図が出来するのです。
これでは、暴動が起きても不思議はないだけでなく、こういう移民の若者達が、TVを見、インターネットや携帯電話で連絡をとりながら放火等をして歩いたわけですから、フランス警察の力では容易にその暴動を収束させることができなかったのも道理です。
(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-cops13nov13,0,1852647,print.story?coll=la-home-world(11月14日アクセス)、及びhttp://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2005/11/19/2003280827(11月20日アクセス)による。)
(3)人口増加
補足的原因の第二は、フランスの人口増加です。
ドイツやスペインの出生率はどんどん減って今や1.3なのに、フランスの出生率は1.9を維持しています。
これは、フランスでは、一世代につき20万人から30万人が追加的に労働市場に入ってきていることを意味します(注10)。
(注10)移民の流入がほぼ止まっており、かつ出生率が2を超えていないのに、労働人口が増加してきている、というのはいささか解せないが、社会党の元首相のロカール(Michel Rocard)が言っていることをそのまま記した。
だから、失業率が高止まりになり、その高失業率が、とりわけ移民の青年達を直撃しているのです(注11)。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2005/11/18/2003280675(11月19日アクセス)による。)
(注11)ロカールは、社会主義者らしく、西欧に共通する問題ではあるが、GDPこそ伸びてきているものの、この30年以上にわたって、経営者資本主義から資本家資本主義へ、国家による規制から規制緩和へ、社会福祉の削減へ、という動きによって、貧富の差が拡大したことも、移民を直撃している、と指摘している。
(4)教師の権威失墜
補足的原因のその三は、フランスの教師の権威失墜です。
これは、米国のNew Republic誌に載った、ちょっと面白い説なのですが、1960年代にフランス(や世界の先進国)で起こった学生蜂起によって、フランスの教育機関が荒廃し、教師の権威が失墜したため、教師が、かつてのようにフランス的価値を学生達にインドクトリネートする意欲を失ってしまったことが、ここに来て効いてきている、というのです。
(以上、http://www.slate.com/id/2130363/(11月19日アクセス)による。)