太田述正コラム#9732005.11.28

<崩壊しつつあるフィリピン(その2)>

 まず、フィリピンの経済の悪化と政治の停滞について、概観しておきましょう。

(以下2と3は、基本的にhttp://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/FI30Ae04.html2004年9月30日アクセス)による。)

2 経済の悪化の概観

 (1)加速する人口増

 1980年代と90年代には一旦減速した人口増が、このところ年2%を大きく超えるようになっており、2004年末には8,400万人のフィリピン人口が、2050年までには2億人になると見積もられています。にもかからわず、カトリック教会はフィリピンの大部分を占めるカトリック教徒に対し、依然として避妊薬の服用を禁じています。

 (2)一人当たり国民所得の減少

 上記人口増と、経済の低成長のため、(インフレ分を除いた一人当たり)実質国民所得は、1980年からずっと変わらないままであり、ドルベースでは、目減りしています。

 (3)貧困層の増大

 必要なカロリーと住居を確保できない貧困層は、じりじり増えて、全人口の40%を超えるに至っています。38%の世帯は、堅固な構造の住居に住んでいません。安全な飲み水が確保できる世帯は80%を下回ってしまいました。全世帯の21%は電気がありませんし、所得が下位40%の世帯の44%は電気がありません。

 (4)大金持ちによる富の独占

 アヤラ(Ayala)家だけでフィリピンの株式総額の18%を保有しており、上位10家ではその比率が56.2%にもなります。そして、上位15家でフィリピンのGDP50%以上を支配しています。

 例えば日本では、上位15家で日本の株式総額の2.8%しか保有していません。

3 政治の停滞の概観

 このような経済状況の下、フィリピンの政治はいつまで経っても代わり映えがしません。

 1986年のピープル・パワーによる反乱でマルコス(Ferdinand Marcos)政権が倒れた時に、貧しい大衆が抱いた夢は、全く実現しませんでした。

 アキノ(Corazon Aquino)政権もラモス(Fidel Ramos)政権も、約束していた農地改革を真面目には実行しませんでした。

 アキノ女史も、そして上院や下院の議員達の大部分も、大金持ちの封建的な大土地所有者達であり、フィリピンの国富を牛耳るエリート諸家族の一員かその関係者であり、それ以外の人は、政治家になどまずなれないのです。

 ようやく、そうでない人物であるエストラダ(Joseph Estrada)が大衆の輿望を担って大統領になったかと思ったら、真偽の定かではない汚職の嫌疑をかけられて、エリート諸家族とカトリック教会が連携して惹き起こした二度目のピープル・パワーによる反乱ですぐに失脚してしまいました。

 そして現在、フィリピンは、またもやエリート諸家族の一員たるアロヨ(Gloria Macapagal-Arroyo)大統領の下にあります。このアロヨ政権が、これまでの歴代政権同様、抜本的な社会的・経済的改革に乗り出す意思も能力もないことは、間違いなさそうです。

(続く)