太田述正コラム#992(2005.12.9)
<北朝鮮の人権問題を無視する韓国>
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1 初めに
8?10日の三日間、韓国では北朝鮮の人権問題に関する国際会議(international conference on human rights problems in North Korea)が開かれていますが、駐韓米国大使や米国の北朝鮮人権問題担当特使が出席しているというのに、開催地の韓国政府からは誰も出席しなかったことが、会議出席者達の怒りを呼んでいます。
北朝鮮の人権問題を無視する韓国の姿勢については、これまでも何度か(コラム#325や360で)触れてきたところですが、今回、復習の意味も込めて、改めてとりあげてみました。
2 韓国が無視する理由
(1)タテマエ
韓国は、どうして北朝鮮の人権問題を無視するのでしょうか。
韓国政府がタテマエ的に言うのは、人権問題を取り上げることは北朝鮮を怒らせ、金大中政権発足以来追求してきた対北朝鮮宥和政策の進展が阻害されるし、第一、まがりなりにも続いている六カ国協議を頓挫させかねない、ということです。
(2)ホンネ
しかし、これはあくまでもタテマエです。韓国政府のホンネは次のようなものである可能性が強いと考えられます。
第一に、韓国民は、人権を最優先で追求されるべき事柄であるとは考えていない。
例えば、テロリストに自供をさせるためには拷問も許されると考える人の割合は、米国は6割、英仏は5割強、独・加・墨は5割弱であり、伊・西では大部分の人が拷問に反対であるのに対し、韓国では拷問も許されると考える人が9割近くにのぼっている(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-torture7dec07,1,5427311,print.story。12月8日アクセス)。
だから韓国民が、北朝鮮の人々がきちんと生活していけるように手を差し伸べることが、人権問題の追及などよりはるかに優先度が高い、と考えるのは当然だ。
韓国政府としても、そのように考えている。
第二に、米国が北朝鮮の人権問題を取り上げているのは、北朝鮮の体制変革・崩壊を狙っているためだと思われるが、韓国政府として、そんな狙いに与するわけにはいかない。
北朝鮮が体制変革したり、崩壊したりするのは避けたいからだ。
なぜか。
北朝鮮が体制変革したり崩壊したりすれば、韓国が北朝鮮経済を全面的に支えなければならなくなるが、(東西ドイツ統一以降、ドイツ経済が停滞を続けているところ、韓国と北朝鮮の経済力の格差は再統一前の西ドイツと東ドイツの経済力格差の比ではないことから、)そんなことになれば、韓国経済が破綻しかねないからだ。
だから、当面は北朝鮮に経済支援を行い、ある程度北朝鮮に経済力がついてきたところで、熟視が落ちるような形で北朝鮮との統一を実現させたいのだ。
このようにことを急ぎたくないのには、秘めたもう一つの理由がある。
北朝鮮の核武装を既成事実化させたいのだ。
金大中政権発足以降の逆プロパガンダにより、韓国民は、もはや北朝鮮を脅威であるとは思っておらず、愛しい貧しい同胞だと思っている(注1)。
(注1)韓国政府は、公定の高校の「近現代史」教科書において、例えば、ソ連・東欧における共産主義体制崩壊に対する北朝鮮の対応について、北朝鮮の体制の優秀性を宣伝し制限的に経済開放を推進した、と肯定的に評価せしめている(http://www.sankei.co.jp/news/051126/sha051.htm。11月26日アクセス)し、北朝鮮のイメージを損なう、公開処刑場面等のビデオのTV放映を禁止している(http://www.csmonitor.com/2005/0329/p01s04-woap.html。3月29日アクセス)。
だから、北朝鮮の核武装が既成事実化したとしても、それは韓国にとっては脅威ではない。それどころか、北朝鮮の核は、南北統一後、統一朝鮮の核となる。核武装した統一朝鮮は、史上初めて、周辺の大国からの自立を果たすことができよう。またこれは同時に、韓国の経済力を基盤とする、経済強国・統一朝鮮が、その経済力に見合った軍事力を保持することをも意味する(注2)(注3)。
(以上、韓国の北朝鮮核武装容認論については、http://www.csmonitor.com/2005/0810/p09s01-coop.html(8月10日アクセス)による。)
(注2)韓国は、1970年代の朴政権の時に核武装計画を追求したが米国の反対で断念に追い込まれた。しかし、2000年まで、一部研究者が勝手に核武装研究を行っていたことが昨年露見している。
(注3)1994年には、韓国と北朝鮮が協力して核武装し、日本を核恫喝するという小説が韓国で出版されたが、この本は500万部も売れた。
北朝鮮の核武装を既成事実化させるためには、何としても、六カ国協議が妥結して北朝鮮が核武装を放棄したり、米国が北朝鮮を武力攻撃してその核能力を壊滅させたり、あるいは米国が北朝鮮の人権問題や武器輸出・覚醒剤取引・通貨偽造問題を追及して北朝鮮に体制変革が起こって北朝鮮が核武装を放棄したりすることを妨げる必要がある。
だから、韓国政府として、北朝鮮に経済援助をしているのは、北朝鮮が核放棄の見返りに米国や日本から経済援助を引き出す必要性を減少させるためであるし、韓国政府として、米国による北朝鮮の武力攻撃に反対しているのは米国による北朝鮮攻撃を思いとどまらせるためであるし、韓国政府として、米国による北朝鮮の人権問題追及等に非協力的なのは、北朝鮮が追いつめられて体制変革がもたらされるようなことを回避するため、でもあるのだ。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2005/12/08/2003283489、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200512/200512080024.html、及びhttp://english.chosun.com/w21data/html/news/200512/200512080016.html(いずれも12月9日アクセス)によるが、部分的に私見でふくらませた。)