太田述正コラム#1000(2005.12.14)
<一筋縄では行かない地球温暖化問題>
(「第2回 まぐまぐBooksアワード」の投票が、21日まで行われています。
http://books.mag2.com/dynamic/m/0000101909/index.htmlをクリックして、ぜひとも本コラムへの人気投票をお願いします。なお、24時間置きに投票できますので、投票締め切りまで、繰り返し投票していただければ幸いです。昨夜せっかく10位入りを果たしたというのに、本日昼前に11位に落ちた後、10位との差がどんどん開いてきています!)
(おかげさまでコラムが1000本目になりました。本日、朝から、ポータブルTVで構造計算偽造問題の証人喚問を聞きながら作業をしました。ウェッブ・ブラウジングしてダウンロードする作業やダウンロードした記事等を読む作業はできたけれど、コラムの執筆の際には、TVのスイッチを切らざるをえませんでした。ラジオでニュース等を聞きながら車の運転はできるし、ピアノの演奏も実はできます。改めてコラム執筆が創造的な作業であることを「発見」しました。)
1 始めに
地球温暖化問題への取り組みに米ブッシュ政権が消極的であることはよく知られています。
昨年の今頃は、米国の有力プレスは、懸命に炭酸ガス排出量の増大が地球温暖化の主たる原因であると書きたてて、ブッシュ政権の翻意を促していたものです(注1)。
(注1)例えば、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A26065-2004Dec25?language=printer (2004年12月27日アクセス)。
そして、ついに今年、ブッシュ政権は、このことを認めるに至りました。しかしブッシュ政権は、依然炭酸ガス排出量を削減することについては首を縦に振っていません。(コラム#788)
ブッシュ政権は、大口献金者である米石油メジャーの意向を踏まえて、石油消費量の減少につながる炭酸ガス排出量削減に反対している、と考えられており、地球温暖化の影響と噂されている超大型ハリケーンのカトリーナの出現・直撃によってニュー・オーリーンズ等が大災害を蒙ったことを契機に、米国の有力プレスは、米石油業界批判を再開して(注2)現在に至っています。
(注2)例えば、http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-davis7oct07,0,3022006,print.story?coll=la-news-comment-opinions(10月8日アクセス)。ちなみに、この論考は、今年8月末のカトリーナより、昨年3月にブラジルを襲ったハリケーン・カタリーナ(Catarina)の方が更に注目されるべきだと指摘している。記録が残っている限りでは、南大西洋で生まれた最初のハリケーンだったからだ。
しかし、京都議定書に規定されているような炭酸ガス排出量削減方式が妥当であるかどうかについては、大いに議論があるところです。
今回は、そのあたりをさぐってみましょう。
2 京都議定書方式への異論
4人のノーベル賞受賞者を含む世界の一流の経済学者達が昨年、コペンハーゲンに集まり、全員で次のような見解( Copenhagen
京都議定書では、先進国が2010年の予想炭酸ガス排出量を30%削減し、2050年には50%削減することを目標としている。しかし、仮に米国を含むすべての国がこの目標を達成したとしても、それは2100年における地球温暖化レベルをわずか6年間先延ばしにする程度のことであり、ほとんど効果はないと言ってもよい。
他方、そのためのコストは巨大であり、少なくとも毎年1,500億米ドルもかかる。国連の計算によれば、その半分のコストで(地球温暖化以外の)世界の主要な問題・・きれいな飲み水・衛生・基礎的医療・教育、等・・をすべて、きれいさっぱり、今ただちに解決できる。
確かに地球温暖化は、発展途上国を、貧しさ故により苦しめることは事実だ。
しかし、国連による最も悲観的な予測でも、2100年までには発展途上国の一人当たりの平均的な豊かさは、先進国のそれに追いつき、追い越すと考えられている。
だから、過早に炭酸ガス排出削減を行うのは、現在の先進国の人々にとってはカネばかりかかって全く得にならない、ということになる。
そもそも、エイズ・飢餓・自由貿易・マラリア、と取り組む方が地球温暖化と取り組むよりコスト・ベネフィット上がはるかに賢明だ。
例えば、270億米ドルあれば、2,800万人もの人々がエイズに罹るのを予防することができるし、120億米ドルあれば、マラリア患者を10億人も減らすことができる。
これは、炭酸ガス排出削減努力を諦めるということではない。カネがかかる割に効果の少ない京都議定書方式は止め、その代わり、より効果の大きい方式・・すべての国が、例えばGDPの少なくとも0.1%を非炭素エネルギー技術の開発に費やすという条約に加入する・・を追求すべきだ。
この方式なら、京都議定書方式よりも5倍も安上がりであり、京都議定書の次の議定書で考えられている方式よりもはるかにはるかに安上がりだ。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2005/12/02/2003282647(12月3日アクセス)による。)
3 感想
日本は、(英国を含む)欧州と米国、そして中共を含む発展途上国と先進国、のそれぞれの間に入って、地球温暖化問題で主導的役割を果たすべき立場にあります。
そのためにも、もっともっと日本国内で、上記のような考え方への賛否について、議論が戦わされることが望まれます。