太田述正コラム#1002(2005.12.15)
<日中関係の現状(その2)>
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これは、(先の大戦直後の話とはいえ、事実上、)先の大戦に関しても、日本の良い面は積極的に評価する方針を中共当局が打ち出した、ということを意味します。
ここまで踏み込んだということは、中共当局が、いかに日本との友好関係の維持増進に力を入れているかを物語っている、と私は思います。
そのことを説明する前に、小泉首相と前原党首(代表)への中共当局のつれないしうちはどう解釈すればよいのか、考えてみましょう。
まず小泉首相からです。
日中首脳会談は「延期」されただけであり、しかも、その理由として靖国神社参拝問題が挙げられていないことに注目すべきでしょう。
これは、中共当局が、小泉さんの次の首相が、仮に靖国神社に参拝する人物であってもその新首相との首脳会談には応じる、と言っているに等しい、と私は思います。
つまり、胡錦涛や温家宝は、小泉さん個人に嫌悪感を抱いていて、二度とサシで会いたくないということだと思うのです。
どうしてそこまで嫌われてしまったのか、その理由が想像できなくもありませんが、かりそめにも日本の首相である小泉さんに敬意を表して、ここで書くことは控えましょう(注1)。
(注1)私の小泉純一郎論については、コラム#11、15、28等を参照されたい。
次に前原代表についてです。
彼の致命的チョンボは、先般の訪米時にワシントンで行った講演で「中国の軍事力増強は現実的脅威」と発言した(産経上掲)ことです(注2)。
(注2)前原代表の12日の北京の外交学院での講演の後の質疑応答で、質問は、このワシントンでの発言に集中した。また、同席していた外交学院長自身の厳しい批判を浴びた。(産経上掲)
中共の核ミサイルは脅威だが、通常兵力については、このまま中共がその増強を続けても、容易に日本や米太平洋軍への脅威にはなりえない、というのは国際的常識(注3)であり、中共当局ももちろんそう考えています。
(注3)中共は、本格空母を保有する計画すら現在持ち合わせていないと考えられているからだ。最新の典拠としては、例えば、http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/12/14/2003284354(12月15日アクセス)参照。なお、このことは、米国及び(事実上)日本がその防衛にコミットしている以上、台湾についてもあてはまる(コラム#534、578?580)。
ですから、前原代表は、「中共の核ミサイルは現実的脅威だ」あるいは「このまま中国の軍事力増強が続いていくと現実的脅威になりうる」と発言すべきだったのです。
このことで中共は、前原代表が、安全保障通であると自負しているのは偽りであるのか、あるいは適切な言葉遣いができない、政治家失格の人物である(注4)のか、そのどちらか、またはその両方だと評価し、いずれにせよ、前原なる人物は将来にわたって相手にしない、という決断を下したのではないでしょうか。
(注4)前原代表は、自分の発言が祟ってノ・ムヒョン大統領との会談を断られ、訪韓を断念したばかりだ(典拠省略)。
前原代表は13日夜、北京市内で記者会見し、中国要人との会談見送りについて「靖国問題が解決しても、すべてがうまくいくわけでないことが明らかになった」と中国側の対応を批判(注5)するとともに、「誰かに会うために自説を曲げることがあってはならない」とも強調した、と報じられています(産経上掲)が、彼は、「自説そのもの」、または「自説の説明の仕方」が不適切であったことに全く気付いていないようです。
(注5)小泉首相が、今年、姑息な「私的」参拝を行ったのも不適切だし、前原代表が首相の靖国参拝を擁護しなかったのも不適切だ。ここでは私の靖国神社参拝問題についての考え方は繰り返さない(コラムが多すぎるので挙げない)が、前原代表のように、靖国に参拝しない、というのも一つの見識だと再度申し上げておこう。
大事なことは、参拝するにせよしないにせよ、その理由付けだ。また、いずれの立場をとるにしても、中共(や韓国)による靖国神社参拝批判に対しては、厳しく切り返すべきだろう。
それにしても、「靖国問題が解決しても、すべてがうまくいくわけでないことが明らかになった」という前原発言はなさけない。
それにしても「大国」でありかつ隣国である日本の最高権力者やその日本の最大野党の党首に対する何たる無礼、と怒ってみても始まりません(注6)。
(注6)そもそも、中共の今までの、歴代民主党代表への対応が手厚すぎた、とも言える。
以前(コラム#913で)申し上げたように、しょせん中共はまだまだ発展途上国なのであり、発展途上国というのは、このように、「無礼」なものなのです。しかもその上中共は、中華意識をどこかに引きずっている(注6)ことから、「無礼」さがハンパじゃなくなる場合があるのです。
(注6)対清貿易の拡大を図るため、1816年に英国から清に派遣されたアマーストは、当時の嘉慶帝に謁見することとなったが、三跪九叩頭の礼を要求されてこれを拒絶し、追い返された(http://www.tabiken.com/history/doc/A/A167R200.HTM)ことを思い出そう。
さて、そろそろ本論に戻りましょう。
(続く)