太田述正コラム#10975(2019.12.10)
<関岡英之『帝国陸軍–知られざる地政学戦略–見果てぬ「防共回廊」』を読む(その48)>(2020.3.1公開)
中国は、アジア開発銀行(ADB)に対抗して、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)<(注111)>を設立した。
(注111)Asian Infrastructure Investment Bank。「<中共>が2013年秋に提唱し、・・・「合計の出資比率が50%以上となる10以上の国が国内手続きを終える」としていた設立協定が発効条件を満たし、2015年12月25日に発足し・・・た。57か国を創設メンバーとして発足し、2017年3月23日に加盟国は70カ国・地域となってアジア開発銀行の67カ国・地域を超え・・・2019年7月時点で100カ国・地域が加盟している。一方で日本、<米>国は2019年時点で参加を見送っている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%A9%E6%8A%95%E8%B3%87%E9%8A%80%E8%A1%8C
それは時期的に「一帯一路」構想の発動と符合する。
両者はもちろん表裏一体である。
ADBの設立目的は「経済開発」であり、日本が主導してアジア諸国の戦後の復興と経済発展を支援してきた。
これに対し中国が設立したAIIBは、「インフラ整備」に特化しているところに、あざとい含意が込められている。
「革命は銃口から生まれる」と言ったのは建国の父、毛沢東だ。
中国共産党の伝統的思考様式では、政治は経済に優先し、軍事は政治に優先する。
⇒そのような発想は、スターリン主義由来なのではなく、日本フェチであった毛沢東が日本の武家政権の歴史から学んだものである、と、私は見ているわけです(コラム#省略)。(太田)
「一帯」すなわち陸路については鉄道網や道路網、「一路」すなわち海路については港湾施設など、要するに平時であれ有事であれ、いつでも軍事転用可能な兵站ネットワークを張り巡らせることで、ユーラシア大陸とその周辺海域への軍事的アクセスを確保・拡充することを企図しているのは明白だ。
⇒もっと単純な話であり、明治政府における島津斉彬信奉者達のゴッドファーザーとも言うべき山縣有朋のいう利益線(コラム#省略)を、中共は、アジアを代表して、(当面ロシア部分を除くところの)アジアと欧州の最遠境界に設定し直し、この利益線(境界線)に至る兵站路として、一帯と一路の整備を、中共の主導権の下で広く資金を集めつつ行いつつあるのが、AIIBであり「一帯一路」構想である、といったところでしょう。(太田)
かつて帝政ロシアがシベリア鉄道を敷設することによって極東に進出し、英国が七つの海を支配することによって、「日の沈まぬ帝国」を築き上げ、日本とドイツが「空のシルクロード」と呼ばれた欧亜連絡航空路を東西からリンクさせることによって、先行する英露に拮抗しようとして果たせなかった、あのグレート・ゲームの先蹤を踏襲しようとしているのだ。
⇒ここは、字面に関する限り、私と関岡が共鳴しています。
関岡にも、それが、島津斉彬コンセンサス中のアジア主義の延長線上に位置づけられるもの、という捉え方をして欲しいものですが・・。(太田)
ここに、歴史の彼方に埋もれた「防共回廊」構想に、いま再び光を当てる意義が明らかとなる。
モンゴル、チベット、ウイグルの自律を支援し、中国の統制下から解放することができれば、中央アジアおよび親中国国家パキスタンと中国本土との地理的接壌が遮断され、「一帯一路」構想の土台を根底から掘り崩すことができる。
それのみにとどまらない。
いつの日か、モンゴル、チベット、ウイグルの独立の悲願が達成され、これら新生国家の発展と繁栄を日本が支援すれば、「中華人民共和国」という名の中華帝国は解体を余儀なくされ、本来のサイズに縮小した漢人国家の周囲を親日反中国国家群が囲繞するという、まったく新たな地政学的秩序が誕生する。
東アジアのパワーバランスは一変し、日本の安全保障環境も一新される。
これこそ北京が最も恐れる悪夢のシナリオである。
「防共回廊」は終わっていない。
いまも有効な地政学戦略なのだ。・・・」(212~221、228、233~234、236~237、242~247、249、255~263、266~269、276~278、289~292、295~297)
⇒ここは、全く不同意です。
何度も指摘したように、「防共回廊」構想の東トルキスタン部分は、杉山らは中国共産党に委ねたのであるところ、その「防共回廊」は、対露(ソ)・対中国国民党のための杉山らの帝国陸軍と中国共産党の共同プロジェクトだったのであって、帝国陸軍(ないし日本帝国)が対中国共産党のために推進したものでは全くないからです。
繰り返しますが、AIIB/「一帯一路」構想は、「防共回廊」構想の延長線上のものであり、だからこそ、中共当局は、日本のAIIBへの加入を切望している(典拠省略)のです。(太田)
(続く)