太田述正コラム#1033(2006.1.6)
<キリスト教と私・・拾遺集(その3)>
5 米キリスト教徒の二極分解
先般(コラム#1024で)、「米国には信心深い人が多く、しかも、その信心深さの程度は増してきている」と申し上げたところです。
誤解が生じるといけないので、補足しますが、米国では信心深い人だけが増えているわけではなく、不信心の人も増えており、非世俗的な人々と世俗的な人々に両極分解しつつあるのです(注4)。
(注4)コラム#331、456、458、470参照。
米国でのある長期にわたって毎年実施されてきた世論調査結果によれば、1972年から2002年にかけて、「宗教原理主義者」であると考える人は27%から30%に増えているのに対し、「宗教的にリベラル」であると考える人は18%から29%へと大幅に増えているのです。ということは、「宗教的に中庸(moderate)」であると考える人が52%から36%に減ったということを意味し、まさに米国は宗教的に両極分解しつつあるわけです。
また、同じく米国での別の調査によれば、世論調査をすると約4割の人が毎週教会に行っていると答えるけれど、実際に毎週教会に行っている人は21%しかいない、ということが分かっています。
(以上、http://www.csmonitor.com/2005/1116/p16s01-lire.html(11月16日アクセス)による。)
現在、米国では非世俗派が世俗派よりほんの少し多数を占めており、それが最近の二度の米大統領選挙で共和党のブッシュが民主党のゴアとケリーを破ったゆえんなのです。
6 周辺諸国とキリスト教
(1) 始めに
日本周辺諸国でもキリスト教は無視できない存在です。
台湾については、李登輝前総統に代表してもらう形で、既に(コラム#1013で)論じたので、ここではフィリピンと韓国について語ることにしましょう。
(2)フィリピン
フィリピンの総人口8400万人中の67%がカトリック教徒です。
フィリピンはブラジル、メキシコに次ぐ世界第三のカトリック大国なのです。
またフィリピンは、小国である東チモールを除けば、アジアで人口の多数がカトリック教徒である唯一の国でもあります(注5)。
(注5)フィリピンにおける宗教をめぐる状況については、既にコラム#975、978で触れたことがある。
フィリピンではカトリック教会以外に市民が集う自立的な社会団体がほとんど存在しないため、否応なしにカトリック教会も政治に関与してきました。
例えば、マルコス(Ferdinand Marcos)大統領が打倒された1986年、及びエストラーダ(Joseph Estrada)大統領が打倒された2001年のそれぞれのいわゆるピープル・パワー革命において、カトリック教会が決定的役割を果たしたことは良く知られています。
他方、昨年夏の、アロヨ(Gloria Macapagal-Arroyo)大統領の選挙違反疑惑に端を発する政治的危機において、決定的瞬間において、議会での大統領弾劾や、街頭行動を起こそうといった動きが腰砕けになったのは、カトリック教会の介入によるものでした。
しかしこのところようやく、フィリピンのカトリック教会の指導者達は、教会は政治に関与すべきではない、という考え方に傾きつつあります。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/HA06Ae02.html(1月6日アクセス)による。)
まさにそうあるべきであって、マルコスの打倒はともかく、エストラーダの打倒やアロヨの擁護については、是非の議論が分かれるところであり、いずれにせよ、フィリピンのカトリック教会は、大土地所有というフィリピン政治の根本的問題から目をそらせてきたのであって、政治への関与が中途半端だったという批判はまぬがれません。
フィリピンにおいて、遅ればせながら政教分離が定着することが期待されれるところです。
(2)韓国
韓国ではキリスト教徒が総人口の約30%を占めていますが、まず気になるのは、韓国で脱北者の脱北を手助けしているのが、キリスト教団体ばかりであり、彼らが脱北の手助けを、脱北者への布教を目的として行っていることです。
(続く)