太田述正コラム#11011(2019.12.28)
<映画評論64:わたしは、ダニエル・ブレイク(その1)>(2020.3.19公開)

1 始めに

 前々回の今年9月の東京オフ会後、何本かAmazon Primeで映画を見たのですが、コラムにしたものがまだありません。
 前回の今年12月の東京オフ会後は、映画を見る時間すらなかったところ、昨日、ようやく少し時間が空いたので、表記の、『わたしは、ダニエル・ブレイク』をAmazon Primeで鑑賞し、今回も余り気が乗らないながらも、とにかく、コラムにしようと自らを叱咤した次第です。
 さて、この映画(原題:I, Daniel Blake)は、ケン・ローチ監督、ポール・ラヴァーティ脚本による2016年の英仏映画であって第69回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した作品なのですが、英国映画協会とBBCフィルムズが制作陣に入っている
α:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%8F%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%AF%E3%80%81%E3%83%80%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%AF 
β:https://en.wikipedia.org/wiki/I,_Daniel_Blake
ことにまず驚きましたね。
 あれだけ政府に批判的な・・特定閣僚(ダンカン・スミス(Duncan Smith)保険相)の批判まで登場人物が行っている(映画そのもの)・・映画を日本のNHKの原型たる「国営」放送である英BBCが、制作陣の一翼を担うとは、と。
 なお、これは英映画では毎度のことですが、監督等の高学歴が印象的でした。
 監督のローチ(Ken Loach。1936年~)はオックスフォード大(法)卒で、
https://en.wikipedia.org/wiki/Ken_Loach
脚本のラヴァーティ(Paul Laverty。1957年~)はローマのグレゴリアン大(哲)卒でグラスゴーのストラスクライド大法科大学院卒、
https://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Laverty
ですからね。
 (ちなみに、この二人の同じ組み合わせで、2006年にも、『麦の穂をゆらす風』(原題: The Wind That Shakes the Barley)(英愛映画)で、第59回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞しています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%A6%E3%81%AE%E7%A9%82%E3%82%92%E3%82%86%E3%82%89%E3%81%99%E9%A2%A8
 この映画も、鑑賞してみたいものです。)

2 わたしは、ダニエル・ブレイク

 この映画の公開は、2016年5月13日、カンヌ映画祭において、でした(α)が、それは、英キャメロン首相(当時)が、EU残留を問う国民投票を実施すると発表した同年2月20日とその投票が実施された(その結果はご存知の通りの)6月23日の間のことであり、
γ:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E9%80%A3%E5%90%88%E9%9B%A2%E8%84%B1%E6%98%AF%E9%9D%9E%E3%82%92%E5%95%8F%E3%81%86%E5%9B%BD%E6%B0%91%E6%8A%95%E7%A5%A8
英国がブレグジットに至った背景の一端が、結果としてですが、この映画の中で剔抉されている、と私は受けとめました。
 「<主人公>は、自分の循環器医から仕事復帰を禁止されていたにもかかわらず、能力検査の結果、働くことはできるとされ、失業保険や生活保護の受給を止められ<てしまった>」(β)ところから、この映画は始まるのですが、その背景には、NHS(National Health Service=国民保健サービス)(注1)経費の財政負担の増大(注2)に伴う、社会保障予算の削減(注3)がある、と私は受けとめました。

 (注1)「1948年7月5日にベヴァン氏がNHSを開始した時には、次の3つの基本原則を軸としていました:すべての人のニーズを満たすこと、無償で提供されること、支払能力ではなく医療現場のニーズに基づいていること。つまり、歯科、眼科、薬剤を含む医療ケアのすべての分野が完全に無料であるということでした。これを成し遂げるため、すべての病院が国営化され、家庭医および一般医は健康省の職員となりました。・・・
 <英国人達>は自国の健康サービスに大きな誇りを抱いて<きました。>」
https://www.ytrans.com/aspect-of-language/127
 2011年度現在でも、「NHS予算の98.8%は公費にて賄われて<いる。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E4%BF%9D%E5%81%A5%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9
 (注2)https://www.ytrans.com/aspect-of-language/127
 (注3)ダンカン・スミス保険相(Work and Pensions Secretary)<(前出)>時代の2010年から2015年にかけて、英社会保障予算は150億ポンド削減された。
https://www.independent.co.uk/news/uk/politics/i-daniel-blake-iain-duncan-smith-ken-loach-response-criticism-benefits-sanctions-film-unfair-a7384306.html

(続く)