太田述正コラム#10422006.1.12

<再び動き出そうとしている北東アジア情勢>

 (12月(11日)?1月(10日)のHPへの訪問者数は、20953人でした。先月は23724人であり、今までの最高記録は25735人(昨年8?9月)です。累計訪問者数は、569,453人です。他方、太田ブログ(http://ohtan.txt-nifty.com/column/)への月間アクセス数も3541と、最高記録だった前月の3995を下回りました。この訪問者数とアクセス数の単純合計で比較すると24,494人であり、最高記録だった先月の27,719人から大きく落ち込みました。メーリングリスト登録者数も1308名と、先月から14名の増加にとどまりました。)

1 始めに

 今年1月4日付の朝日新聞に、以下のような記事が掲載されました。

 「米国が「北朝鮮製」と断定した精巧な偽ドル札の製造・流通過程が明らかになってきたとして、米政府内から北朝鮮を「犯罪政権」(バーシュボウ駐韓大使)と非難する声が出始めた。・・偽100米ドル札・・スーパーノートは1989年ごろから出回り、これまでの押収分だけで4500万ドル(約54億円)相当にのぼる<が、>発見されずに現在も流通するのは1億ドル分以上ともみられる。・・米政府が北朝鮮の関与を「断定」したのは、欧州での偽札流通の元締的存在とされる「正統派アイルランド共和軍(OIRA)」の指導者ガーランド容疑者(注1)の事件だった。同容疑者は英・北アイルランドで10月、米国の要請を受けた地元捜査当局に逮捕された。・・同容疑者は・・199710月ごろに・・ワルシャワで北朝鮮の国籍を持つ人物と偽札取引を話し合<い、>ベラルーシで取引をしたこともあるとされる。・・偽札や麻薬密輸など北朝鮮の不法行為はすべて同じ組織によって実行されている・・さらに「不法行為で得られた資金は指導層や軍部に流れ込んでいる(注2)・・北朝鮮は「貨幣を偽造したことも、いかなる不法取引に関与したこともない」と主張。「ブッシュ(大統領)一味による中傷キャンペーン」・・と激しく反発している。北朝鮮側は「米国が敵視政策を撤回しない限り、核放棄を話し合うことができない」・・などと、6者協議とからめて米国を揺さぶる態度が顕著になっている。だが、米側は「6者協議と司法手続きは別問題」として、協議と関係なく必要な措置をとる方針だ(注3)。・・北朝鮮を必要以上には刺激したくない韓国政府<でさえ、>「事実が確認されれば、即座に不法行為を中断しなければならない」(潘基文・・外交通商相)と述べている。」(http://www.asahi.com/international/update/0104/003.html2006年1月4日アクセス)

 (注1Sean Garland1969年にIRAから分かれたthe Official Irish Republican Army(=Old IRA)のchief of staff of。ガーランドは、OIRAのフロント政治組織であるthe Irish Workers’ Partyの党首でもある。

 (注2)米国政府は、マカオの銀行、Banco Delta AsiaSARL)が、北朝鮮による通貨偽造・タバコ密輸・覚醒剤密輸といった違法行為のマネーロンダリングに従事している、と指摘している。

 (注3)他国の通貨偽造を政府が行った例としては、先の大戦中のナチスドイツしかない。米国政府は、北朝鮮政府は、通貨偽造等の違法行為で国際犯罪組織と提携してきた経緯があり、簡単に足抜けができなくなっている、と見ている。米国政府が一番懼れているのは、北朝鮮政府ないしは北朝鮮での違法行為担当部局が、国際犯罪組織に「強要」されて、大量破壊兵器をテロリスト等に密売することだ。(注12、及び注3のここまでは、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-counterfeit12dec12,1,1126053,print.story?coll=la-headlines-world20051213日アクセス)による。

     昨年末、米国政府は、上記マカオの銀行を含む、北朝鮮違法行為関係企業に対して経済制裁を発動したhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/01/11/AR2006011100611_pf.html。1月12日アクセス)。

2 金正日緊急訪中

 北朝鮮の金正日は、11日に中共入りをして、まず上海を視察しましたが、日本や韓国のメディアが、従来通り列車で中共入りをしたと報じる中で、韓国の聯合通信社(Yonhap news service)だけは、金が、生まれて初めて飛行機に乗り、平壌から上海に直接飛んだ、と報じました(ワシントンポスト上掲)。

 これが事実だとすると、金が大きな決意を秘めて中共入りしたことがうかがえます。

 金は、胡錦涛との会談も予定しているようですが、そもそも、両者は、胡錦涛が二ヶ月前の10月に北朝鮮を訪問した際に会談を行ったばかりであることを考えると、今回の金の訪中は、緊急事態が出来したためである可能性が大です。

 韓国政府は、この金の訪中は、中共が、米国が指摘した北朝鮮による通貨偽造疑惑、就中マカオの銀行の嫌疑について、三ヶ月間調査をした結果、間違いないと判断し、本件について中共としては、米国と歩調を合わせざるをえないと決断し、しかるべき措置をとるよう北朝鮮に申し入れたために急遽行われたものである、と見ています。

 北朝鮮は、米国による経済制裁の解除を6カ国協議再開の条件にしていましたが、このような事態の進展を受けて、今後北朝鮮が6カ国協議再開問題等にどのように臨むか、金正日が胡錦涛に説明し、同意を取り付けようとしている、という可能性が極めて高い、と言えるでしょう。

(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200601/200601100012.html、及びhttp://english.chosun.com/w21data/html/news/200601/200601110019.html(1月12日アクセス)による。)

 意外なところから尻に火がついた金正日から、近々重大発表が行われる時が近づいているようです。しばらく動きのなかった北東アジア情勢が、再び動き出そうとする瞬間をわれわれは目撃しつつあるのです。