太田述正コラム#1056(2006.1.22)
<オフ会の報告(その2)>
(前回のコラムの「てにをは」等を大幅に手を入れて、ブログ、そして本篇上梓と同時にホームページに再掲載しました。)
(3)日本の植民地統治
C氏から、小室直樹が、日本の植民地統治の評判がよくないのは、それが植民地統治ではなく日本化だったからだと言っていた、という問題提起がありました。
そこで私から、「フランスだってフランス化をやったのであり、別に日本だけの話ではない。旧フランス領の多くの国では今でも(フランス語はもとより)フラン(厳密にはフランス・フランそのものではない)を使っているし、「独立」しなかった所は海外県として、フランス国内と全く同じ扱いをしている。その代わり、完全独立した国に関しては、独立に際してアルジェリア等のように、大量の血が流れることになった。思うに、同化政策をとった宗主国の中で、最も植民地統治が巧みだったのが日本ではないか。朝鮮半島が現在なお日本の統治下にあったとすれば、完全に日本に同化していた可能性がある。韓国の日本への怨念は、1945年という早い時期に朝鮮半島が日本から切り離されてしまったことが大きいと思う。」といった趣旨の発言をしました。
また、私は更に「倫理観」の観点からの説明を試みたのですが、一般の読者の方々には、アーロン収容所シリーズの結末の所まで、おあずけにすることにします。
(4)日本の移民受入
A氏から、「私は太田さんの見解に99%同意なのだが、1%同意できない部分がある。その一つが移民受入論だ。エントロピー論を援用するが、ダイヤモンドが価値があるのは、それが偏在しているからだ。同様、大量に移民を受け入れたら、日本文明は滅びてしまう」という問題提起がありました。
私からは、どれだけ規制しようとも移民は入ってくる、むしろ計画的に移民受入を図って行くべきだ、という持論を述べた上で、アングロサクソン文明が大量に異種の移民を受け入れた地域においても滅びていないのはなぜかについて、私見を披露しました。((3)で言及したのと同じ理由で、ここでは記しません。)
A氏は、「自分は、日本社会をもっともっと対外的に開放すべきだと思っている。このことと、自分の移民受入反対論は矛盾している。矛盾のある見解は間違っている可能性はある。」と言っていました。
(5)日本の司法の問題点
A氏から、「実際に色んな裁判を経験してみて、日本の裁判官は、一般社会を全く知らないだけでなく、約四分の一はキチガイだ、という印象を持っている。」という問題提起がありました。
(おおむね同感なのですが、)私は、「せっかく最高裁判事・・合同で全下級裁判官の管理権限も持っている・・の国民審査の制度があるのに、全く機能していないし、最高裁判事が任命される時も、ほとんど話題にならない。中には、エッこんな人が、と思われる人が任命される場合もあるのだが・・。最高裁事務局に判決執筆を丸投げしている判事もいるのではないか。毎回、世論を巻き込んで大騒ぎが繰り広げられる、米最高裁判事任命劇とはエライ違いだ。」と述べ、更に「ライブドアへのガサ入れが行われたが、その当否は別にして、検察に掣肘を加えられる存在が皆無である現状は問題だ。すべての役所が多かれ少なかれ腐敗堕落している中、検察だけ例外であるはずがない。私自身、法務・検察首脳の堕落ぶりを目にしたことが何回かある。しかし、たまに内部告発が行われる場合もあるが、何も起こらない。政治家やマスコミは検察を懼れているので口を閉ざしてしまう。もちろん検察自身が動くわけがないし、法制度的には、検察の配下である警察も動かない。」と続け、更に「警察についても、検察とほぼ同じことがあてはまる。浅野前宮城県知事が宮城県警の捜査費の使途の開示を要求して、捜査費を凍結して警察と全面的に対決したのは、勇気を通り越して無謀な試みだった。よほどご自分の廉潔性に自信があったのだろう。しかし、根本的な問題は、日本は国家警察であるにもかかわらず、都道府県警察の経費が基本的に都道府県負担になっているところにある。形式論で言えば、カネを出している所に対し、カネをもらっている側は開示責任がある。浅野前知事は、この形式論を振りかざしたわけだが、それなら、国家警察の解体という実質論を同時に展開すべきだった。(私自身は、道州制を実現した上で国家警察を解体し、日本式FBIと各道州警察が並立するスタイルになるのが望ましい、と現時点では考えている。)浅野前知事は非自民だったが、結局昨年の知事選に立候補せず、みすみす自民党県議だった候補者に知事の座を譲り渡してしまい、捜査費の凍結はただちに解除された。これは浅野さんが警察に弱みを捕まれて知事の座から引きずり下ろされた、ということなのではないかと勘ぐりたくなる。」と述べました。
(6)自民党恒久政権の弊害
このあたりでB氏より、「だんだん気持ちが暗くなってきてしまったが、結局のところ、自民党を政権の座から引きずり下ろさなければならない、ということか。」という声が発せられました。
私は、「(かねてより自分は、自民党は日本最大の利益擁護団体に堕してしまった官僚機構の走狗だ、と言ってきた。)耐震偽装事件で、伊藤公介元国土庁長官の口利きが取り沙汰されているが、伊藤氏に限らず、日本では政治家たるものが、役人に対するロビイスト業をやっていることが問題なのだ。本来、政権政党の政治家は、党で、あるいは役所の大臣や政務官等として、「手足」たる役人をコントロールしたり役人に指揮命令する立場にある。その政治家が、しかも大臣を務めたような政治家が、単なる「手足」であるはずの役人に対し、ロビイスト活動・・非政治家たるロビイストによる、政治家(ポリティカル・アポインティーを含む)に対する陳情活動・・をする、というのは嗤うに笑えに倒錯現象だ。」と補足しました。
(続く)