太田述正コラム#10602006.1.26

on the job training・実学・学問(その2)>

3 学歴の意義

 自然科学者になったり人文・社会科学者になったりするためには、大卒以上の学歴が必要不可欠であることは誰でも直感的に分かりますが、どうして新しいビジネスモデルを確立するためにも大卒以上の学歴が必要不可欠なのでしょうか。

 私は今や、いかなる人物にとっても、(新しいビジネスモデルの確立だろうが何だろうが、)一つの分野で新しい地平を切り開きたいのであれば、大卒以上の学歴は必要不可欠だと思っています。

 大卒以上の学歴があって、初めて、学問(の一分野の基礎)を習得することができます(注4)。

 (注4)学問の習得には、人文・社会科学と医学(ただし、履修年限が長い)にあっては学部卒業、自然科学にあっては学部卒業ないし修士課程修了を要する。なお、法律学については後述する。

そして学問を習得すれば、学問が、現実の観察→理論化→現実の観察(検証)→理論化(理論の発展)→現実の観察・・ということを無限に繰り返していく厳しい営みであることを体得することができます(注5)。

(注5)これは、数学・論理学等、現実と直接関わりを持たない一部の学問にはあてはまらない。また、法律学については、やはり後述する。

ですから、学問を習得した人間・・大卒以上の人間・・は、理論化と現実観察の方法論を身につけており、それと同時に、理論化と現実観察のむつかしさも分かっていることから謙虚さも身につけているものなのです。

大卒以上の学歴を身につけること、とりわけ、学部を卒業することには、皆さんよくご存じのように、それ以外の効能もあります。

それは、幅広いバックグランドを持つ同期生等と、勉強やクラブ活動を通じて互いに刺激を与えあうとともに、生涯にわたって続く交友関係を築くことができることです。(社会に出てからは、利害損得がからんで、なかなか真の交友関係を築くことはできないものです。)

 内河グループとライブドアの、それぞれのキーマンたる経営者達はこのような学歴がなかった以上、ビジネスモデル策定といった高度な理論化作業がまともにできるわけがなかったのです。こうして、彼らは綱渡り的欠陥ビジネスモデルをつくってしまったのです。しかもこれらの経営者達は、この新ビジネスモデルを用いた初期の成功に目が眩み、ますます傲慢になり、利害損得抜きで相談に応じたり忠告したりしてくれる友人を持っていなかったこともあって、欠陥ビジネスモデルの暴走が起きてしまった、ということになります(注6)。

 (注6)姉歯氏は経営者ではなく、従って内河グループのビジネスモデル策定に関与したわけではないが、コスト削減指示を受けた時に、その合法的方法を自分で考える(=理論化作業を行う)ことができず、また、恐らく利害損得抜きで相談できる同業・非同業の友人も持っていなかったために違法な方法に走ったと考えられるのであって、やはり学歴がなかったことが影を落としていると私は思う。

4 更なる考察

 ではどうして内河グループとライブドアのキーマン達は、大学を目指したり、大学を卒業したりしなかったのでしょうか。彼らにその能力がなかったとは、到底思えないにもかかわらず・・。

 それは、日本の大学が官学も私学も、様相こそ違えども、実学の府であって、本来の意味での学問の府ではないからです。

 上記、キーマン達は、なまじ頭が良いだけに、早く実社会に出てオン・ザ・ジョッブ・トレーニングを積めば、役にも立たない実学を大学で勉強して4年間以上を空費している連中を出し抜ける、と考えたのではないでしょうか(注7)。

 (注7)キーマン達のうち、内河グループの姉歯氏とライブドアの宮内氏は、実家が貧しく学費が捻出できなかったとされている(TV報道等)が、彼らにその気があれば、大学進学は何らかの形で可能だったはずだ。

 これらキーマン達の目には、実学の背後に学問があり、その学問を学ぶことに大きな意義がある、ということが見えていなかったのです。

 となると、非は、これらキーマン達にとんだ短絡的誤解をさせてしまった日本の大学の側にもありそうです。