太田述正コラム#1065(2006.1.30)
<防衛施設庁談合事件等に思うこと>
1 始めに
構造計算偽装事件・ライブドア事件に引き続き、東横イン事件があったかと思ったら、今度は防衛施設庁官製談合事件で施設庁幹部の逮捕、と不祥事のオンパレードです。
最後の事件を中心に、思うところを申し述べたいと思います。
2 防衛施設庁談合事件
民営化前の新東京国際空港公団を巡る官製談合疑惑が発覚した重電メーカー各社が、防衛施設庁(施設庁)発注の電機設備工事でも受注調整を行っていた疑惑が浮上し、施設庁の出先機関である東京防衛施設局が発注した電機設備工事の入札が捜査対象になっている、という報道(http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20051117AT1G1603O16112005.html(2005年11月17日アクセス)、http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20051124/mng_____sya_____007.shtml(同年11月24日アクセス)がなされたのが昨年11月でした。
そうしたら、いきなり本日、東京防衛施設局が発注した空調工事で、入札前に落札させる共同企業体(JV)を決めたうえ、他のJVには高値で応札させるなど、メーカー側に談合させた、という官製談合の疑いで、施設庁ナンバー3で技術系トップの技術審議官河野孝義氏ほか、河野氏の前任者たる施設庁OB1名と現職の施設庁幹部1名の計3名が東京地検特捜部に逮捕された、というニュースhttp://www.nikkei.co.jp/news/main/20060130AT1G3002C30012006.html。1月30日アクセス)が飛び込んできました。
私は怒りで一杯です。
河野氏が、私の防衛大学校(防大)総務部長時代の部下(同校施設課長)で、私が防大創立50周年事業(キャンパス中心部の全面立て替え)を立ち上げた時の仲間であり、その河野氏をこんな目に会わせ、自らは安全圏にいる歴代の施設庁長官や防衛事務次官を始めとする防衛庁キャリア達に対する怒りで・・。
というのは、今回逮捕された河野氏らに違法性の認識があったことは間違いないものの、彼らは、防衛庁キャリアが作り上げた施設庁ぐるみ、ひいては防衛庁ぐるみの企業との癒着スキームの実行犯に過ぎず、彼らには、このスキームから足抜けすることなど不可能だからです。
企業との癒着スキームとは、防衛庁側から防衛庁が財・サービスを購入する企業にOBを押しつけ(再就職させ)(注1)OB受け入れ数に見合った受注を当該企業にさせる、というものであり、特殊な装備品のようにメーカーが限られる場合はもちろんのこと、入札が行われる場合であっても、あらゆる官製談合的手段を講じてこのスキームの貫徹が図られます。
(注1)もちろん、受注をねらって企業側から退職予定者の受け入れを申し出ることも多い。
私が防衛庁に在職していた当時の調達実施本部の不祥事とか、昨今の国交省がらみの談合事件を見ておれば、時代がこんなスキームの存続を許さなくなっていることは明らかです。
にもかかわらず防衛庁が、OBの押しつけをやめる、という抜本的な対策をとろうとした形跡は全くありません(注2)。
(注2)防衛庁時代に仙台防衛施設局長等を務めた私自身の責任も回避するものではないが、在職中小悪は随分つぶしたものの、このスキームは相手として巨大過ぎた。このスキームに乗っかった形で再就職することは、文字通りの税金泥棒だと思い、これだけは回避しようと、防衛庁を自分で飛び出したことを、ぜひご理解いただきたい。
現在の防衛事務次官、官房長(OB「人事」担当)、施設庁長官の出処進退ぶりを注目しましょう。
3 東横イン事件
27日には、ビジネスホテルチェーン大手である(株)東横インが、ホテル建設に際し、法律や条例で義務づけられている身障者用設備や駐車場を設けた建物をいったん建てながら、市などの完了検査直後にこれらの設備を撤去・改造する工事をして開業していることが露見しました(http://www.asahi.com/national/update/0127/TKY200601260394.html。1月27日アクセス)。
その後、建築に係る法律や条令違反が続々と見つかっていますが、これらは、同社西田憲正社長の指示で行われたことが判明しています。
西田憲正社長は、東横インの創業者として「駅前旅館の鉄骨版」というホテル・コンセプトの下、ホテル支配人に子育てを一段落した女性らを積極的に登用することによって、人件費を抑えるとともに、女性の「きめ細かさ」を前面に押し出す新しいビジネスモデルを確立し、1986年の創業以来、わずか20年弱の間に全国に展開するホテルチェーンを築き上げました。
西田氏は、1946年生まれで、日本大学商学部経営学科卒業、同大学大学院グローバル・ビジネス研究科修了(経営学修士)であり、日本大学グローバル・ビジネス研究科非常勤講師、国立大学法人山口大学工学部講師を務め、いくつか著書もあるだけに、みごとなできばえのビジネスモデルです。
(以上、http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060128/mng_____sya_____010.shtml、及びhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4535584087/503-3004222-3109549(どちらも1月28日アクセス)による。)
ですから、建築関係の法律や条令、あるいはガイドラインの違反を積極的に犯してまでコスト削減に努める必要などなかったのに、西田氏が余りにもこすっからく、かつ順法精神が欠如していたために、大顰蹙をかうことになってしまったわけです。
4 耐震偽装事件とライブドア事件
この両事件については、既にご説明してきたように、トップが綱渡り的ビジネスモデルを打ち出したため(綱渡り的ビジネスモデルしか打ち出す能力がなかったために)違法行為を犯す関係者が出現し、ビジネスが破綻するに至ったものです。
5 感想
このように態様は異なっているものの、ずべてに共通しているのは、志の欠如であり、人間がカネにひざまずいているという構図です。
危ういかな日本。