太田述正コラム#10772006.2.11

<防衛施設庁談合事件等に思うこと(続々)(その2)>

 政策官庁がやっていることは、これまた単純化すれば、企業や個人の活動の規制や助長です。

 規制手段としては、罰則を伴う法律の策定がありますし、助長手段としては、減税や補助金の交付があるほか、この両者の組み合わせもありえます。

 政策官庁の「OB」は、知識と経験を本当に買われて天下りをするケースが、官需官庁、就中防衛庁に比べれば若干はあります。政策官庁の大部分は経済官庁ですが、日本は吉田ドクトリンの下、安全保障は蔑ろにしてきたけれど、経済は最優先してきたお国柄だからです。

 とはいえ、政策官庁の大部分の「OB」もまた、仕事をすることを期待されない形で企業に天下っているのです。どこが官需官庁と違うかと言えば、天下った「OB」に企業(業界団体を含む)が支払う年俸に対して当該企業が官庁側から受け取る対価が、計算式では表しにくいので、はたから見えにくいという点です。

 もとより、補助金が交付されている企業に天下るような場合は別です。

しかし、個人に補助金が交付される場合は、そのことで裨益する企業(例えば、個人が太陽電池を設置する場合、補助金が出るが、太陽電池をつくっている会社はそれによって裨益している)に天下りをすれば、対価関係はぼやけます。

 だから、政策官庁では、あまり天下りがらみの不祥事が露見しないのです(注4)。

 (注4)キャリア出身の大学教授をしばしば目にするが、若くして転身した場合はともかくとして、「OB」の場合は、官庁と大学との癒着関係の下での天下りが大部分だ。国公立大学は、(独立行政法人になった現在でも)、大部分が直接間接国費でまかなわれているし、私立大学も、国からの補助金なくしてはやっていけない。だから、財務省(旧大蔵省)や総務庁(旧自治省)のキャリアは容易に天下りできる。それ以外の政策官庁の場合も、審議会が沢山あり、その委員に大学の教授を任命することで、大学に貸しをつくり、天下りの資とすることができる。なぜ貸しになるかと言うと、委員になれば、その教授も教授の属する大学も共に箔が付くからだ。(教授については、将来、叙勲の等級が上がる、というメリットもある。)

ちなみに、ご存じの方もおられると思うが、中央官庁で課長以上の経歴のある者は、著書や論文が一つもなくても、日本の大学の教官になれることになっている。

3 防衛施設庁談合事件への取り組み

 このように、天下りシステムは全省庁共通であり、しかも前にも申し上げたようにこれに、自民党がからんでいるわけです。とは言え、これらの問題を一挙に是正するのは、政権交代でもなければ不可能です。

 しかし、防衛庁限りでできることがいくらでもあります。

 第一に、自民党が防衛庁の利権に寄生している構図を建設部事件を手がかりとして、白日の下に晒すことです(注5)。

(注5)そうそう。コラム#1067に誤りがあったので、忘れないうちに訂正しておく。

「民民談合の中で、仕切り役による官需割り当てに不満があり、受注を増やしたいのだけれど、役所のOBを(更に?)受け入れるつもりのない業者が、政治家に陳情すると、今度はその政治家は役所に対し、この業者の受注を増やすように「陳情」します。役所は、この企業が参加する入札を対象として、単発的に官製談合を行い、この企業に受注させることによって、「陳情」に答えるのです。」(誤)→「民民談合の中で、仕切り役による官需割り当てに不満があり、受注したい(受注を増やしたい)のだけれど、役所のOBを(更に)受け入れるつもりのない業者が、政治家に陳情すると、今度はその政治家は役所に対し、この業者について、入札の際に指名する(指名を増やす)ように「陳情」します。役所は、この企業を特別に指名することによって入札への参加実績をつくり(増やし)、民民談合の中で優先的に将来受注できるように取り計らうことによって、「陳情」に答えるのです。」(正)

「ところで額賀さん。あなたは調達実施本部の事件で防衛庁長官を辞任した後、内閣官房副長官に返り咲いていた時に、現在の河野さんの何代か前の施設庁技術審議官を官邸の副長官室に呼びつけていますね。その時、あなたは随分高圧的に話をされたようですね。同僚の鈴木宗男官房副長官(当時)のマネをされたのかもしれませんが、施設庁の建設部関係者の間で語りぐさになっていますよ。聞くところによると、それは、少なくとも談合防止の話ではなかったらしいじゃないですか。」(誤)→「ところで額賀さん。あなたは調達実施本部の事件で防衛庁長官を辞任した後、内閣官房副長官に返り咲いていた時に随分高圧的な物言いの電話を防衛庁にかけてきたことがありますよね。あわてて、(現在の河野さんの何代か前の)施設庁技術審議官があなたのところにかけつけたのでしたね。聞くところによると、それは、少なくとも談合防止の話ではなかったらしいじゃないですか。」

第二に、防衛庁の天下りシステムの全体像を、建設部事件を手がかりとして白日の下に晒すことです(注6)。

 (6)施設庁建設部の官製談合・天下りシステム(建設部システム)を用いて、建設部出身以外の施設庁「OB」のほか、内局キャリア「OB」も天下っている。このことだけをとっても、防衛庁事務次官・官房長・秘書課長のラインが建設部システムのからくりを熟知していたことは明らかだ。

 第三に、建設部システムに類似するシステムは、官需官庁共通に存在していることを示唆することです

(注7)今回理事長(前技術審議官)が逮捕された防衛施設技術協会の職員には、施設庁OB以外に会計検査院や旧建設省のOBがいる。これは、施設庁が建設部システムを用いて、会計検査院「OB」や建設省「OB」までも天下りさせることで、会計検査院や建設省に恩を売り、その見返りに便宜を図ってもらうという関係があることを推測させる。

 第四に、その上で、防衛庁の天下りシステムを完全に撤廃することです。

具体的には、勧奨退職制度をなくして年金受給開始年齢(65歳)まで全員を防衛庁にとどめることとする一方で、官製談合を止め、民民談合の徹底的な防止策を講じ、かつ官側から企業への天下りの働きかけを一切行わないこととし、「OB」の再就職にあたっては、厳格にその妥当性を審査することとすべきです。

その際、望むらくは、防衛庁職員だけを対象とした恩給制度の復活か、防衛庁職員を特別に優遇した年金制度の導入ですが、それが国民によって認められるかどうかは、第一から第四までの上記課題に防衛庁当局がどれだけ真摯に取り組むかにかかっているのではないでしょうか。

そのためにも、私は、心ある現役の防衛庁キャリア、キャリアたる技官、そして将官及びその「OB」の方々に訴えたいのです。

役所に入った時、任官した時の初心を思い出してください。

そして、一人でも二人でも真実を語ってください。

また、「OB」の方々は、一人でも二人でも天下り先企業から自発的に退職してください。

建設部の現役と「OB」の一部の人だけが厳しく罰せられるのを座視するような臆病者ばかりだとすれば、あなた方が有事の際に命を賭けて国民のために奉仕をし、戦ってくれるなどと誰が信じることでしょうか。