太田述正コラム#11141(2020.3.2)
<丸山眞男『日本政治思想史研究』を読む(その1)>(2020.5.23公開)
1 お断り
「丸山眞男『福沢諭吉の哲学 他六篇』を読む」シリーズは、末尾の、松沢弘陽(注1)による「解説」を取り上げて完結させるつもりだったのですが、この「解説」を読んで、取り上げるほどの内容がない、いや、それ以前に、そもそも何が書いてあるのかよく分からなかった(?!)ので、急遽、シリーズを打ち切ることにしました。
(注1)ひろあき(1930年~)。松本高校卒、東大法卒、同院で丸山眞男に師事。北大で助教授、教授、名誉教授、そして国際基督教大教授、という経歴。業績としては、「内村鑑三や福沢諭吉の研究が有名。この他、丸山の業績を整理紹介している。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E6%B2%A2%E5%BC%98%E9%99%BD
ご承知のように、「丸山眞男『政治の世界 他十篇』を読む」シリーズも(コラム#10989までで)中断しているところ、抽象的な論文ばかりが取り上げられていて、辟易させられたためであり、少なくとも、現時点で、こちらのシリーズを再開する気にもならないので、新たに、表記のシリーズを立ち上げることにした次第です。
2 丸山眞男『日本政治思想史研究』について
「丸山<が>・・・第二次世界大戦中に執筆した『日本政治思想史研究』は、ヘーゲルやフランツ・ボルケナウらの研究を日本近世に応用し、「自然」-「作為」のカテゴリーを用いて儒教思想(朱子学)から荻生徂徠・本居宣長らの「近代的思惟」が育ってきた過程を描いたもの」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%B8%E5%B1%B1%E7%9C%9E%E7%94%B7#%E6%94%BF%E6%B2%BB%E6%80%9D%E6%83%B3%E5%8F%B2%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%B8
であって、「戦後の日本思想史研究の道を切り開いた古典的名著」で、「毎日出版文化賞受賞」をした
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784130300056
、という「名著」です。
前川亨(注2)は、「大学3年生の夏休み<に>・・・読み始めた。すると、読むのを止められなくなった。先生<に>言われた通り、スリリングな小説を読んでいるような感じだった。思想史がこんなにも面白い分野だったとは、抽象的な「理」だの「気」だのという議論が、実は生々しい社会的現実と密接に関連していることが解き明かされていく。個々の人間を超える何らかの力が歴史を突き動かしているようだ。そして逆説につぐ逆説の連続。これこそ弁証法(理性の狡知)ではないか。時折、背筋がゾクゾクした。朝から晩まで読み耽り、3日で読破(!)した。」
https://www.senshu-u.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00012831.pdf&n=2017_sur_06.pdf *
というのですが、これには、ちょっと感心しました。
(注2)とおる。早大修士(文学)。現在、専修大学法学部教授。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200901087408627563
私が、この本を読んだのは、確か、大学1年生の時だったのではないかと思うのですが、何とか読み終えはしたものの、理解するところまではいかなかった、という記憶がかすかに残っているからです。
まあ、この頃の2学年の年齢の違いは大きいと言えば大きいですが・・。
さて、この前川自身が、「本書の学説については、後に著者自身も自己批判をしているし、戦後の東アジア(「日本」に限らず)の思想史研究は本書を乗り越えようとして展開してきたと言ってよい。」と書いています(*)が、例えば、奥谷浩一(注3)は、「その後の日本思想史研究の蓄積は,この著作の時代的制約とさまざまな問題点とを明らかにしつつある.丸山は,東アジアの思想圏全体を俯瞰することなく,儒教と朱子学を我が国の封建制社会の支柱となった思想体系とのみみなし,江戸時代初期に強固に確立されたこの思想体系が荻生徂徠などの思想のインパクトを受けて解体され,これと並行して近代的意識が形成されたと解釈する.こうした理解は,この時代の複雑で豊かな思想空間を単純な図式によって把握し,限られた射程の準拠枠によって評価するものである.」(2015年5月)
https://ci.nii.ac.jp/naid/120005614593
と批判しているところ、改めて、現在の私なりに、この本を読み直して、批判を行ってみたい、と思い立ち、この本を書庫で探し出した次第です。
(注3)おくやこういち(1946年~)。北大(文)卒、同大修士、同大博士課程単位取得満期退学。「その後、北海道大学文学部助手。札幌商科大学人文学部講師、札幌学院大学人文学部助教授、同人文学部教授を経て、2010年より札幌学院大学学長。2013年学長退任。人文学部教授。2015年定年退職。・・・哲学的人間学の研究やヘーゲル論理学の成立史研究などを主な研究対象とするほか、近年は環境倫理学などにも関心を持つ。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%A5%E8%B0%B7%E6%B5%A9%E4%B8%80
で、再読し始めたのは、2月27日の早朝、最寄りのスギ薬局で順番待ちをした時(コラム#11132)のことです。
その折、大昔に読んだ時と、現在とでは、アンダーラインを引く箇所が全く違っていることを発見し、この間の私の変化・・進歩だと思いたいですね・・が窺われたところです。
(続く)