コラム#1085(2006.2.19)
<今年中にも対イラン攻撃か(続)(その1)>
1 始めに
前回本件を(コラム#1053で)取り上げてから、イランの孤立はますます深まり、対イラン武力攻撃の話題が盛り上がっています。
その状況をご報告しましょう。
2 イラン包囲網の形成
(1)米国
米国で1月に実施された世論調査の第一のものによれば、米国民の約8割がイランは核保有を目指していると考えています。
そして第二の世論調査によれば、イランに対する武力攻撃については賛成42%・反対54%であったものの、経済制裁については、約7割が行うべきだ考えていることが判明しました。
また、第三の世論調査によれば、イランのウラン濃縮の再開は、対イラク戦開戦以前のイラクより危険だと答えた者は47%、同じくらい危険だと答えた者は19%にのぼりました。
更に、第四の世論調査によれば、対イラン武力攻撃を是とする者が57%も占めました。
(以上、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/01/30/AR2006013001247_pf.html(1月31日アクセス)による。)
これを見ると、米国世論は、おおむね対イラン武力攻撃を是とスタンスに傾きつつあることが分かります。
(2)ドイツ
1月22日、ドイツのユング(Franz Josef Jung)国防相は、ドイツ最大の新聞であるビルド(Bild)の紙面、「イランに対しては外交的手段が優先されなければならないが、軍事的手段も排除されるものではない」と語りました(http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/HA24Ak01.html。1月25日アクセス)(注1)。
(注1)ビルドは、イランのアフマディネジャド(アフマ)とヒットラーを並べた写真を掲載し、「イランは世界を奈落の底に落とす?」という見出しをつけた。
(3)ロシア
2月4日、IAEAは、ついにイランの核保有計画疑惑を国連安保理に付託する決定を行いましたが、この間、イランは、欧米諸国とイランの間に入って穏便な解決を図ろうと努力を続けたロシアを侮辱して怒らせてしまいました(注2)(http://www.guardian.co.uk/iran/story/0,,1702110,00.html。2月4日アクセス)。
(注2)イランのアフマ大統領が、「ロシアはイランの親分のようにふるまい、イランが中世的国家であるかのように扱っている」と語ったことに対し、ロシアのラブロフ外相は、「イランは誠実な仲介者として行動してきたロシアを侮辱してはならない」と批判した。
(4)フランス
1月19日、フランスのシラク大統領は、「諸条約に違反して核能力を保有しようとしている国々がある」とした上で、「われわれに対してテロリストを使って、あるいは大量破壊兵器を使って攻撃しようとする国々の指導者達は、われわれの断固たる適切な対応に直面するだろう。この対応は、在来的手段によってなされることも、それ以外の手段(=核兵器)でなされることもありうる。」とし、フランスの核戦力は、かかる戦術的使用を可能ならしめるための措置を既に講じられている、と明らかにイランを念頭に置いた核恫喝を、フランスの核搭載原子力潜水艦基地訪問時に行いました(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/01/19/AR2006011903311_pf.html。1月20日アクセス)。
更に2月16日に、フランスのドゥストブラジ(Philippe Douste-Blazy)外相は、その2日前のイランのウラン濃縮再開を受け、TV番組で、イランは核保有を目指していると断言しました。これは、まだそこまで断言していない英国政府より一歩先んじたものです(http://www.nytimes.com/2006/02/17/international/europe/17france.html?pagewanted=print。2月18日アクセス)。
(5)コメント
このように、対イラク戦開戦前とは様変わりで、当時対イラク戦開戦に反対した仏独二カ国が、対イラン武力攻撃を容認しており、やはり当時対イラク戦開戦に強硬に反対したロシアが、今回は口をつぐみそうな趣きであることは、注目されます。
これは、既にイラクのシーア派勢力に影響力を行使しつつあるイラン(注3)が、核保有すれば、イラクはもとよりサウディや湾岸諸国に対する影響力までも、それら諸国のシーア派住民を通じて飛躍的に増大させ、更には民族的に近いアゼルバイジャンに対する影響力も飛躍的に増大させると考えられ、イランを含め、これら諸国がすべて大産油国であるだけに、世界のパワーバランスに大地殻変動が起きる懼れがあるからです(アジアタイムス前掲)。
(注3)1月22日、シーア派民兵を率いるイラクの武闘派のサドル(Moqtada Sadr)師は、訪問中のテヘランで、イランが武力攻撃されたら、加勢する、と答えた(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/01/23/AR2006012301701_pf.html。1月24日アクセス)。
(続く)