太田述正コラム#10912006.2.23

<中共のネチズン達の戦い(その1)>

1 始めに

以前(コラム#694で)「中共におけるインターネット規制は・・世界で最も「進んで」おり、中共政府はインターネット時代においても情報統制が維持できると自信を深めているもようです」と記したところですが、中共の心あるネチズン達は、果敢かつ巧妙に政府の情報統制への挑戦を続けており、情勢は次第にネチズン達に有利に傾きつつあるようです。

2 開き直った中共当局

 グーグルとマイクロソフトが中共当局のインターネット情報の検閲に協力していたり、ヤフーが当局が反体制派の会員を訴追するための情報を提供したりしたことが、米国で問題となり、2月15日と16日に米議会でこの三社等の代表を招いて聴聞会が開かれました(http://abcnews.go.com/Business/wireStory?id=1546910&business=true。2月22日アクセス)。

 その直前の2月14日、前代未聞のことですが、中共のインターネット規制の責任者のLiu Zhengrongが規制の正当性を訴えるブリーフィングを行いました。

 この責任者は、中共政府は海外のウェッブサイトへのアクセス容量の飛躍的増量を図ってきているとした上で、インターネット規制は、先進国の政府や(自社のウェッブサイトに関して)企業が行っている規制とほとんど違わないのであって、青少年等に悪影響を及ぼすポルノ等の有害あるいは不快な情報、もしくはテロリスト関連等の違法な情報の流布を規制しているにすぎない、と主張しました。そして、米国政府が、同時多発テロ以後に制定された愛国法(Patriot Act)に基づき、ウェッブサイトやEメールを監視していること等を例に挙げました。

(以上、http://www.nytimes.com/2006/02/15/international/asia/15web.html?pagewanted=print(2月16日アクセス)による。)

 これは開き直りであるとともに、中共のインターネット規制当局が、上記のように外からも、そして後述するように中からも「攻撃」を受けて防戦一方になっていることの表れでもあります。

3 ネチズン達の戦い

 (1)総論

 現在、中共のインターネット利用者は1億1100万人以上に達しており、中共は米国に次ぐインターネット大国です。

 彼らは、中共の全国民のほんの一部分に過ぎず、しかもゲームをしたり、音楽をダウンロードしたり、友人達とチャットを楽しむようなインターネットの使い方が中心ではあるものの、大都会に住む教育レベルの高い人々が多く、彼らにとってインターネットは、既にTVや新聞よりも重要なニュース源になっています。

 だからこそ、中共当局も、インターネット規制にやっきになっています。

 当局によって、アクセスが禁止・阻止される国外サイトが何千も指定されていますし、Eメールやウェッブ上で使うことが禁じられ、使うとフィルターされて消えてしまう言葉も沢山指定されています(コラム#694)。

 このほか、毎金曜日の朝、全中共の最も人気のあるインターネット・ニュースサイトの代表・・その中にはヤフーも含まれている・・が北京市情報局(Beijing Municipal Information Office。中共党情報宣伝部に直結している)に集められ、報じてはならないニュースや重点を置いて報じるべきニュースが伝達されます。

(以上、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/02/18/AR2006021801389_pf.html(2月20日アクセス)による。)

しかし、出版に関してはともかくとして、新聞・TVに関しては、中共当局の対応が後手に回ることがあることは既に(コラム#1082で)ご紹介したところ、インターネットに関しては、中共当局と心あるネチズン達との間で、次第に後者に有利となりつつある戦いが続いています。

以下、具体的に見ていくことにしましょう。

 (2)各論

  ア 技術的ブレークスルー

 かねてより、中共の心あるネチズン達は、ファイアーウォールに守られていないサーバーを探し出して、そのサーバー経由で国外の禁止サイトにアクセスすることに努めてきましたが、それは容易なことではありませんでした。

 しかし、二年ほど前から、状況は、このようなネチズン達にとって大いに有利に変わりました。

 上記の作業を自動的にやってくれるフリーソフト(FreegateUltraSurf)が二種類も、中共から米国に亡命した法輪功(Falun Gong)メンバー達によって開発されたからです。

 この二つのフリーソフトを開発した会社は、米国政府から補助金を受けており、Freegateは8万人、UltraSurf10万人が既に使用しています。

 中共当局は、このソフトが添付されているEメールをブロックしたり、中共国内で用いられているアンチ・ウィルスソフトでかかるEメールを汚染メールとしてはじく措置をとっていますが、うまくいっていません。

(以上、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/02/20/AR2006022001305_pf.html(2月22日アクセス)による。

 今度は、個々のネチズンの奮戦ぶりをご紹介しましょう。

(続く)