太田述正コラム#1106(2006.3.4)
<中共経済の脆弱性(その6)>
(以上、特に断っていない限り、http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/02/26/2003294750(2月27日アクセス)によるが、適宜私見で補充した。)
8 エピローグ2:中共経済とインド経済の将来
21世紀は、世界第一位と第二位の人口大国であって、いずれも現在高度経済成長中の中共とインドの世紀になると言われています。
近代国家としてのスタートを切ったのは、インドが1947年、中共が1949年とほぼ同時です(注7)が、市場経済への舵を切ったのは、中共が早くて1979年であったのに対し、インドは1990年代初頭です。
(注7)この時点ではインドの方が中共より一人当たりGDPは大きかったが、現在ではインドは中共の二分の一だ。
現在、経済成長率は中共の方がインドより高いのですが、それはどうしてなのでしょうか。
中共の貯蓄率も、従って投資率もインドの倍もあり、また、中共は対外的開放度においてインドよりはるかに上を行っているからです。また、輸出の対GDP比は中共がインドの倍ですし、外国による直接投資の対GDP比に関しては、中共は世界有数の高さなのに、インドは無に等しいからです。
しかし、将来性はインドの方が上だ、という意見が欧米では主流です。
なぜなら第一に、中共は外資中心の成長(前述)であり、世界に知られたブランドはまだほとんどなきに等しいのに対し、インドは自生的に成長しており、ソフトウェアのインフォシス(Infosys Technologies)やウィプロ(Wipro)、製薬・バイオのRanbaxy やDr Reddy’s Labs等が既に有名だからです。
第二に、中共経済は民主的統制を受けない国家が主導しており(前述)、今や民間主導となったインド経済に比べて、資源の無駄遣いが甚だしい不効率な経済だからです(注8)。
(注8)ちょっと古いデータだが、2002年で見ると、中共のGDPはインドの2倍強で、中共のGDP成長率は6%に対しインドは4.6%だったが、中共の貯蓄額はインドの4倍、外国による直接投資は中共がインドの実に10倍以上にのぼる。いかに中共経済に無駄が多いかが分かる。
第三に、中共の金融システム(銀行と資本市場)は問題が山積している(前述)のに対し、インドの銀行は長い伝統の下、健全に経営されており、また、その資本市場は、やはり長い伝統の下、厳格な管理・監視が行われており、(既に全証券取引所がネットの結ばれて単一の取引所化している等)世界で最も発達しているとさえ言えるからです。
第四に、中共は戦前は排外主義、戦後は長く鎖国主義を蹈襲したため、国際感覚を持った国民が育っていないのに対し、インドの方は、大英帝国の一部だった時代に、インド人は大英帝国に広く雄飛し、これらの印僑との間で国際的ネットワークを形成しており、英語力ともあいまって、国際感覚を持った国民が多く、経済のグローバル化時代により適切に対応できると考えられているからです。
そして、何と言っても決定的なのは、インドが民主主義国家であり、司法が機能しており、財産権が確立していて、持続的経済発展のための基盤的制度が早くから整備されていることです。これらについては、一党支配が続く中共にとっては望蜀の感があるものばかり(前述)です(注9)。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.atimes.com/atimes/China/FD30Ad04.html(2004年4月30日アクセス)、及びhttp://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/040315world.htm(2005年7月4日アクセス)による。)
(注9)もちろん、中共の方が優れている面もある。インドは、ヒンズー原理主義国家に変容する危険性が依然として解消されていない(コラム#301?303、317、318、354、355、667、749、777、778、780、781)という点はさておき、(道路・港湾等の)産業インフラが貧弱だし、サービス産業に比べて(政府の規制が多いこともあり)製造業が弱いし、貧富の差も大きい。
最後の点については、中共の貧富の差は拡大しつつある(前述)に対し、インドでは縮小しつつあり、早晩立場は逆転すると考えられている。
しかし、インドでは、貧富の差は縮小しても、カースト制に由来する差別は容易に解消されないことだろう。(都市での公共トイレ掃除に従事する労働者に対する両国の一般市民の接し方の違いについて、http://www.atimes.com/atimes/China/GL06Ad01.html(2005年12月6日アクセス)参照。)
(完)