太田述正コラム#1125(2006.3.15)
<無惨なるかな日本(その5)>
これは、戦時においては、軍団を超えるレベルにおいてすら、司令部が隷下戦闘部隊から遠く離れている齟齬を来す、ということを示しています。いわんや、軍団レベル以下であれば、戦時において司令部を隷下戦闘部隊から切り離すことなど論外だ、ということです。
さて、在日(在沖縄)米海兵隊は約1万8,000人で、うち現在約3,000人がイラクに派遣されていますが、艦船や航空機と一体となった陸海空統合機動部隊として即応態勢にあり、台湾のような近傍地であれば、1日程度で戦場に第一陣を展開させる能力を持つとされています。
在日米軍再編(transformation)協議では当初、在沖海兵隊の戦闘部隊の一部を国内外に移転する案が検討されていたけれども、2004年11月の中共の原子力潜水艦による日本領海侵犯事件を機に、米側は、中共による台湾侵攻に対する抑止力として、沖縄において海兵隊の即応態勢を維持する必要があると判断(注5)し、2005年春に日本側に、戦闘部隊については本土移転も困難との考えを伝えてきたという報道があります。
(以上、http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050630it01.htm(2005年6月30日アクセス)による。)
(注5)中共軍が特殊部隊だけを派遣して台湾の政権中枢を制圧し、親中政権を樹立して台湾を支配下に収めることを想定し、親中政権が台湾全土を完全に掌握するまでの数日間に、在沖海兵隊を台湾に急派し、中国による支配の既成事実化を防ぐ必要があるのだというふれこみだ。
本当に米側がそう考えるに至ったのだとすれば、即応態勢にある(=常に戦時であると心得る)ことを旨とする在沖米海兵隊に関しては、戦闘部隊はもとより、司令部(第3海兵両用戦部隊(=第3海兵遠征軍)司令部)も、想定戦場である台湾に隣接する沖縄からは動かせない、ということになるはずです(注6)。
(注6)米海兵隊は、即応態勢にある時は、MAU(Marine Amphibious Unit=海兵大隊戦闘団)、MAB(Marine Amphibious Brigade=海兵水陸両用戦旅団)、あるいはMAF(Marine Amphibious Force=海兵水陸両用戦軍=海兵遠征軍=海兵両用戦部隊)編成をとる。この各部隊は、それぞれ15日間、30日間、60日間の継戦能力を持つ。米国は海兵両用戦部隊を、沖縄に1つ、米本土に2つ維持してきた。なお、第3海兵両用戦部隊の実働部隊は、沖縄のほか、ハワイにもいる(第1海兵旅団)。(http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/109/syuh/s109014.htm。3月15日アクセス)
なぜなら、海兵両用戦部隊は、一個歩兵師団を中核とする陸海空統合部隊であり、規模的に、陸軍の(2個以上の師団を中核とする)軍団に相当する実戦部隊であって、戦時において陸軍の軍団司令部を戦闘部隊と切り離すことが軍事合理性に反するのと同様、即応態勢にある海兵両用戦部隊の司令部を戦闘部隊と切り離すことも軍事合理性に反するからです。
ところが、米側が日本側に提示してきたのは、実戦部隊を沖縄に残したまま、司令部(+支援部隊。7,000?8,000人)をグアムに移転させる案でした。そして、この案で日米間の合意が昨年10月に成立するのです(注7)。(http://www.asahi.com/politics/update/0208/001.html。2月8日アクセス)
(注7)日本側は、実戦部隊を含めた海兵隊をできるだけ多く海外に移転させるべく、米側に海兵隊の物資の事前集積を打診したが、米側は、この話しに全く乗ってこなかった(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20041004it01.htm。2004年10月4日アクセス)。、
一体どうして、米側はこんな軍事的合理性に反する案をごり押ししたのでしょうか。
私は次のように考えています。
まず、米側にとって、台湾は米海兵隊の想定するいくつかの戦場の一つに過ぎず、しかもその優先順位は低いのではないか、ということです。朝鮮戦争終了後、海兵隊の部隊が北東アジアで実戦に投入されたことが一度もないことを思い出してください。
ですから、かねてより米側は、海兵両用戦部隊の司令部を、(北東アジアにもにらみは効くけれど、)より東南アジアや中東に近いグアムに置きたいと考えていたとしても不思議ではありません。グアムは米国の領土ですから、外国政府や住民の意向を顧慮することなく、司令部機能を果たすことができるというメリットもあります。
これは、私の勝手な想像ではなく、そもそもどうしてグアムに各種米軍部隊を集中しようとしているかについて、米太平洋軍司令官が明らかにしたこと (http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/03/14/2003297313。3月15日アクセス)を踏まえています。
では、どうして実戦部隊を沖縄に残すのでしょうか。
(続く)