太田述正コラム#11272006.3.16

<無惨なるかな日本(その6)>

 それは、これまで在沖米海兵隊の兵員が削減されなかった(http://www.coara.or.jp/~yufukiri/98e-simen.html。3月16日アクセス)のはなぜかを考えれば分かります。

 ベルリンの壁が崩壊し、米国にとっての戦後の最大の脅威(ソ連の脅威)が消滅した1989年から2000年までの間、米軍の兵力は大幅に削減されました。例えば、米陸軍は、現役予備役併せて、18個師団から10個師団へ、総兵力は約200万人から約140万人へと削減されています。(http://www.fpri.org/enotes/20050308.military.mines.16dwar10dforce.html。3月16日アクセス)

 ところが、米海兵隊は3個海兵両用戦部隊(3個師団)のままで、総兵力もさして減っていません(典拠失念。ただし、http://www2.jobtrak.com/help_manuals/outlook/ocos249.html(3月16日アクセス)から、容易に推論できる)。

 これは決して、米地上兵力において海兵隊の相対的重要性が高まったからではありません。抜本的な米防衛構想の見直しが行われたわけではないからです。要するに、陸海空軍ともに一律に大なたを振るわれた中で、海兵隊だけはほぼ無傷で残った、ということなのです(fbri.orgサイト上掲から推論)。

 どうして海兵隊だけが特別扱いされたかは、もう明らかですね。

 在日米海兵隊(大部分は在沖縄だが、日本本土の岩国には航空部隊の一部が、そしてハワイには陸上部隊の一部がいる)は、日本の思いやり予算のおかげで、半分の経費で維持できるからです。

 はっきり言えば、3個海兵両用戦部隊のうち、1個削減されても文句は言えなかったのに、安上がりで維持できる1個がある、という理屈で削減を免れたのでしょう。

 問題は、米海兵隊が、沖縄からの退去を地元から求められていたことです。

 米側は、在日の第3海兵両用戦部隊の司令部をグアムに移転する必要があったので、上記海兵隊退去要求をこれ幸いと、日本政府にグアムでの司令部施設等をつくるカネを出させようと考え、その一方で、一見軍事合理性に反する(注8)けれど、実戦部隊は沖縄と岩国に残し、引き続きこれら残置部隊に係る思いやり経費を日本政府に出させようと考えたに違いありません。

 (注8)2000年以降は、米国は、ネットワーク・セントリック戦争(Network-Centric WarfareITをフル活用した戦争。http://www.oft.osd.mil/)を戦えるようにすべく、世界的な米軍再編(Transformationhttp://www.defenselink.mil/transformation/)に乗り出している。その一環として出てきたのが、陸軍のケースで言えば、師団を廃止し、軍団司令部の全般的指揮の下、師団の五分の一の1800人規模のミニ旅団が基本単位となって戦争を戦うというラムズフェルト構想だ。これは、対イラク戦のような、一国の占領を目的とするような大規模な戦争は今後は起きない、という前提の下、もっぱら小回りのきくミニ旅団で対テロ戦を戦い、治安維持・民生安定を行うというものだ。(http://www.intellectualconservative.com/article2832.html。3月16日アクセス)

     これは二つのことを意味する。

     ITをフル活用すれば、実戦部隊と(軍団)司令部とが離れていても、従来ほど齟齬はきたさないだろう、というのが第一点だ。

そして、大規模な戦争は起きないのだから、これまでのように、軍団隷下の二個師団相当(新構想の下では10個ミニ旅団以上)の兵力が同一戦場に投入されるようなことは考えられず、軍団司令部の全般的指揮の下で、あるミニ旅団はアフガニスタンに、もう一つのミニ旅団はイラクで、更に第三のミニ旅団はイランで戦い、残りのミニ旅団は戦略予備として後置される、といったことが通例になる。とすると、軍団司令部が、特定のミニ旅団と行動を共にする意味はなくなるし、むしろ行動を共にしてはいけなくなる、というのが第二点だ。

同じことが、海兵隊についてもあてはまるはずだ。

だから、司令部はグアムにいて、即応態勢にある実戦部隊は沖縄等にいても、さしつかえない、というわけだ。

(9)婦女暴行等を起こすのは若年の荒くれ者が集まっている実戦部隊の方であり、しかも、沖縄の米海兵隊の実戦部隊は、米国内の実戦部隊よりはるかにお行儀が悪い(http://www.coara.or.jp/~yufukiri/98e-simen.html上掲中のグラフ参照)というのに、あえて実戦部隊は残すというのだから、米側は地元の意向など顧慮していないと言われても仕方がない。

 それにしても米側は、よくもまああれだけ途方もない額のグアム移転経費を日本側にふっかけてこれたものです。

(続く)