太田述正コラム#1147(2006.3.27)
<またもフランスにおける暴動(続)(その1)>
初雇用契約制度導入問題は、28日のゼネストが必至という状況であり、フランスはますます混迷の度を深めていますが、これと時を同じくして、フランス政府が顰蹙を買うエピソードが起こりました。
3月24日、シラク仏大統領は、二人の閣僚とともにEU首脳会議の席から一時退出しました。
フランス人たる欧州経団連の会長が、フランス語を使わず、「ビジネスの用語である英語」で同会議で話を始めたからです。
これは、フランスがいかにEUの中で追いつめられているかを象徴するエピソードだと言って良いでしょう。
一つは、フランス語のEU共通語からの転落です。
それが始まったのは、1995年にスェーデンとフィンランドがEUに加盟した時であり、2004年に東欧諸国が加盟したことで決定的になりました。
そもそもフランス語を母国語とする人々は、全世界でわずか1億人しかおらず、日本語よりマイナーな言語なのです。欧州に限っても到底英語と競えるような存在ではないのに、フランス政府は、いまだに過去の栄光にしがみつこうとしているわけです。
(以上、http://www.guardian.co.uk/france/story/0,,1739353,00.html(3月25日アクセス)による。)
もう一つは、より根本的な問題なのですが、フランスが、ヒト・カネ・モノ・サービスの移動の自由というEUの理念に反旗を翻すEU内の異端児的存在になりつつあることです。
この何週間というもの、フランス政府は、イタリアのガス会社によるフランス・ベルギー資本のガス会社の買収を阻止するためにこの会社をもう一つのフランスのガス会社と合併させた疑いが持たれています(注1)(注2)(注3)。
(以上、http://news.ft.com/cms/s/50891a92-baab-11da-980d-0000779e2340.html、及びhttp://politics.guardian.co.uk/eu/story/0,,1737827,00.html(どちらも3月24日アクセス)、並びにhttp://www.guardian.co.uk/eu/story/0,,1739304,00.html(3月25日アクセス)、及びhttp://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/03/25/2003299162、http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4842734.stm(どちらも3月26日アクセス)による。)
(注1)フランス政府は、11(10?。コラム#1139)もの保護されるべき戦略産業分野を発表したばかりだし、2ヶ月前には、インドの製鉄会社がフランスに主たる拠点を置く製鉄会社が買収されることに反対したし、2004年には、スイスの製薬会社がフランス・ドイツ資本の製薬会社を買収することに反対した。なお、ルクセンブルグ・スペイン・ポーランドでも、経済ナショナリズム(economic patriotism。ドビルパン仏首相の造語)的動きが噂されている。これらは、すべてEUの法律違反の疑いがある。
(注2)英国(首相官邸に電気はフランス企業、水道はドイツ企業が供給しており、ガスについては官邸が契約している4社中3社が外国企業。http://www.sankei.co.jp/news/060325/kei044.htm(3月25日アクセス))同様、ドイツには経済ナショナリズム的な動きは全くと言って良いほどないし、イタリアにも余りないと言って良い。しかし、失業率や経済成長率の点では、仏独伊三国とも英国に比べればみんな劣等生だ。
(注3)ざっと電子版を見た限りでは、日本の各紙は、シラク仏大統領の首脳会議からの退場というエピソードだけを取り上げるか、フランスのEU内での異端児化の問題をも取り上げつつも、この両者を関連づけて論じることをしていない(http://www.sankei.co.jp/news/060325/kok053.htm、http://www.sankei.co.jp/news/060325/kei044.htm(既出)、http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060325k0000e030015000c.html。3月25日アクセス)。
(続く)