太田述正コラム#11582006.4.1

<前原民主党代表辞任をどう見るか(その2)>

         

3 無能なのは前原氏だけではない

 (1)無能な人々だらけの日本の政官界

 まさに前原氏の無能さは、日本が戦前に犯した過ち・・大学整備における実用の学偏重・・と戦後に犯した過ち・・吉田ドクトリンの墨守・・の二つながらの「被害者」だからだ、と言えそうです。

 しかし、拙著や私のコラムの長年の読者であれば、日本の政界も官界も、このような意味で無能な者だらけであるあることを、私が口を酸っぱくして言い続けてきていることはご承知のはずです。

 政界で言えば、一億円献金隠し事件の地裁判決で言及されることで更に疑惑が深まった橋本龍太郎元総理ら(http://www.nikkansports.com/general/p-gn-tp0-20060331-13360.html。4月1日アクセス)・・橋本氏は官学同様の実用の学偏重の私学の原型たる慶應義塾大学を卒業・・等、官界で言えば、最近不祥事で顰蹙をかった厚生労働省(社会保険庁)・国土交通省(新東京国際空港公団・道路公団)・防衛庁(防衛施設庁)を牛耳る法学部卒の官僚達(典拠省略)、と「被害者」なるが故に無能な人々を挙げれば枚挙の暇がありません(注6)。

 (注6)前原氏は、これらの人々とは違って、決してカネまみれではないが、仕事をやらない、できない、という無能さは共有している。

 (2)自衛隊もまた同じ?

 ここでは、平素あまり語られることのない自衛隊を俎上に載せましょう。

つい最近まで台湾の大学の客員研究員を兼ねていた、米ジョージア大学国際貿易・安全保障センター(the University of Georgia’s Center for International Trade and Security)のホームズ(James Holmes)上級研究員(senior research associate)は、大略次のように指摘しています。(部分的に私の言葉に直した。)

日本と中共は、宿命的なライバルだが、どちらも資源小国だ。

その資源を確保する手段は、輸入するか自分で開発するかだが、日中は、輸入資源の海上輸送路が重なり合っている上、資源開発面においても、化石資源開発が有望な東シナ海での領土問題や経済水域問題を抱えている。

中共は、資源の海上輸送路の確保と資源開発の支援という戦略的観点に立ってその海軍力を整備してきている。日本も当然、海軍力の整備に一層力を入れる必要がある。

問題は、日本の海上自衛隊が穴だらけの海軍であることだ。

 海上自衛隊は、先の大戦での旧海軍の戦訓や海上自衛隊発足時の経緯から、対潜水艦能力と対機雷戦能力に特化している(コラム#58参照)。

 これでは、米軍が関与しない、あるいは関与できない海上紛争が日中間で生起した時、海上自衛隊が単独で中共海軍に対処することは困難だ。(尖閣諸島をめぐる日中間の紛争に、米国が関与するかどうかは疑問だ。)

 だから、日本は自己完結的な海軍力の整備に乗り出すべきだ。

 ところが、海上自衛隊の幹部からは、このような戦略的観点に立った議論が全く出てこない。

 彼らは、日米安保に頼り切ってロクに物事を考えていない。

 戦前の日本帝国海軍の幹部はそうではなかった。彼らは、戦史とマハン(Alfred Thayer Mahan)等の軍事理論を勉強し、戦略を考えるのを常とした。だからこそ、帝国海軍は、清やロシアの海軍に勝利を収めることができたのだし、先の大戦前においても、軍事戦略的には非の打ち所のない、資源と資源輸送路を確保するという南方戦略を立案することができた。

 遺憾なことに、日本は先の大戦での敗戦の結果、戦略的思考そのものを止めてしまった。赤ちゃんまで盥の水と一緒に棄ててしまったのだ。

(以上、http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/03/28/2003299688(3月29日アクセス)による。)

4 終わりに代えて

 このように、今や海上自衛隊幹部の間でも無能が蔓延しているようです。

 もちろん、これは、陸上自衛隊や航空自衛隊の幹部についてもあてはまることでしょう。

 前原氏は、こういう自衛隊幹部とつきあい、彼らからの耳学問で軍事通をきどっていたことが命取りになった、と言えるのかもしれません(注7)。

 (注7)自衛隊の現役・OBの幹部の皆さん。ホームズの言っているのはウソだ、というのなら、私のコラムを受動的に読むだけでなく、私のホームページの掲示板上の議論に参加してください。

 

前原氏失脚後の民主党の後継代表は、小沢一郎前副代表が本命で、菅直人元代表が対抗馬ということのようですが、このお二方は、そもそも吉田ドクトリンの申し子のような存在であり、このどちらかが代表になるようなことがあれば、日本の吉田ドクトリンからの解放は一層遠のくことになるでしょう。

 前原氏の罪は限りなく重い、と改めて痛切に思います。

(完)