太田述正コラム#1160(2006.4.3)
<朝鮮日報の「親」日戦略>
1 始めに
WBCでの韓国の活躍と日本の優勝の報道ぶりから、韓国世論の日本観の変化を感じたと記し、更にその背景についても若干当時(コラム#1132で)記したところですが、朝鮮日報電子版の英語版と、(WBC以来結局毎日読むことになった)日本語版から、韓国随一の高級紙である同紙の「親」日的な紙面作りをご紹介しましょう。
なぜ、カギ括弧がついているのかは、お読みになれば分かります。
2 日本に学べ
(1)日本企業に学べ
例えば、朝鮮日報がある記事につけた「「トヨタに学べ」…ポスコ、企業文化の見直しへ」という見出しから、同紙の「親」日本戦略を感じ取れます。ポスコは、韓国一の製鉄会社ですが、記事の中身は、単に同社がGEやトヨタなどの世界的な企業に倣って企業文化や業務のあり方を見直そうとしている、ということに過ぎないのですから・・。(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/01/20060401000023.html。4月2日アクセス)
(2)日本の政界に学べ
一議員が取り上げた偽メール事件でその議員が議員辞職するとともに民主党首脳部が総退陣したことを取り上げた上で、「韓国の政界では日本のように嘘をついた政治家が締め出されるケースが存在しない。嘘をついても締め出される心配がないので、相手を中傷しようと考えつくままに口にしている。後々その言葉が間違っていたとしても、「違ったら違ったでそれはそれ」という具合に責任は問われない。・・とりわけ選挙を目前にした時期になると、相手を中傷する政治家の嘘が飛び交う。真実かどうかが判明するまでには、相当な時間を要するため、そのときまで相手を苦しめられるという卑劣な思惑から生まれた工作政治だ。先の大統領選挙の際、民主党の薛勳(ソル・フン)前議員が提起した、李会昌(イ・フェチャン)候補が20万ドルの政治資金を受け取ったという主張、李候補の妻の韓仁玉(ハン・インオク)さんが、キヤン建設から10億ウォンを受け取ったという主張、李候補の息子の兵役不正問題が隠ぺいされたという主張は、裁判所で嘘であることが判明した。しかし、そうしたデマをばら蒔いた人物たちは、責任を負うどころか、現政権で首相や長官になって権勢を振るった。嘘をついた政治家が責任を問われない現状では、こうした嘘のオンパレードは今後も続くことだろう」と韓国の政界を批判しています(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/03/20060403000000.html。4月3日アクセス)。
こういう記事を連日のように読まされていれば、韓国の読者は、日本は鑑にすべき国だと思うようになることでしょう。
(3)日本人に学べ
鑑にすべきは日本社会だけではなく、日本人そのものもだ、と訴えているかのような記事も目にしました。
例えば、韓国で初めて個展を開く16歳の天才イラストレーターの小野純一君についての記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/03/31/20060331000034.html。4月1日アクセス)です。
「僕を天才と呼ばないでほしい。本当ではないから。僕はただJunichiです」――16歳になったJunichiは、恥ずかしそうな表情をして、「天才」という表現を固く否定した。10歳のとき、ニューヨークのメディアが、斬新で独創的スタイルと好評したときも、この少年は、「誰にでも描くことのできる絵」と謙虚な態度を崩さなかった。」と小野君を評したのは、日本人一般の能力の高さと謙虚さへのオマージュのように受け取れますし、「「仁寺洞」「竜」など、強烈な色調の作品について質問したところ、意外と韓国を題材にした作品と答える。「去年、韓国を初めて訪問したとき、人々が非常に元気で、活気溢れているというイメージを持ちました。韓国の子どもと友達になりたかったし、それで今回の展示会のテーマを『フレンド』と決めました」」というくだりは、日本人一般が韓国人に対して親近感を抱いていることを読者に知らしめんとしているように受け取れます。
3 韓国人を活躍させる日本の度量を知れ
韓国人が日本で暖かく受け入れられ、活躍している姿を報じる記事も目に付きます。
ロッテに2年間在籍してから巨人に移り、4番バッターとして開幕から大活躍しているイ・スンヨプ選手の記事が連日大きく出ている(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/01/20060401000010.html(4月2日アクセス)、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200604/200604010008.html(4月3日アクセス)等々)のは当たり前かもしれません。イ選手は、WBCでも大活躍したところです。
しかし、「??4番打者としてこれから肩の荷が重くはないか 「まだ4番打者として1ゲーム終えただけだ。与えられた条件の中で最善を尽くす以外になく、結果はふたを開けてみないとわからない」 ??ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の時とは気持ちの面で違いがあったか 「正直なところ、WBCの時より緊張した。もうWBCの良い思い出は封印して、新しい舞台で最善を尽くすのが重要だ」 ??今日の試合を通じて得たものは 「ロッテからジャイアンツに移籍した時、ジャイアンツのファンが自分を歓迎してくれるか心配だった。だが今日の試合で良い印象を残せたのではないかと思う。それが何より嬉しい」」というやりとりからにじみ出てくるのは、日韓友好ムードです。
日韓友好ムードは、日本のTVへの韓国人ニュースキャスター(東海大学の金慶珠(キム・キョンジュ)教授(39歳))の初登場を報じる記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/03/20060403000004.html。4月3日アクセス)でも強く感じられるところです。
4 日本の恐ろしさを知れ
その一方で、日本の「脅威」に注意を喚起する記事もあります。
例えば日本が、外交・金融・通商・文化・軍事・在日のいずれについても、韓国を窮地に追い込むことができる手段を持っているという記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/03/17/20050317000084.html。3月31日アクセス)、韓国人の反日的言動をたしなめることが目的の、冷静に計算された記事だと思います。(面白いので、ぜひ、記事に目を通していただきたい。)
その一方で、この日本の「脅威」に対処するためにも米韓同盟再活性化を、と訴える記事(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200603/200603300031.html。4月1日アクセス)もあるのですが、日本がダシに使われていることに苦笑させられます。
5 結論
もちろん、昔の名前で出ています的な、日本の教科書「改悪」を批判する記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/03/31/20060331000009.html。3月31日アクセス)もあるのですが、朝鮮日報の「親」日戦略はなかなかのものだとお思いになりませんか。
時あたかも、韓国のノムヒョン政権も、国家情報院長の訪日(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/03/23/20060323000005.html。3月23日アクセス)が示しているように「親」日へと舵を切りつつある様子がうかがえます。
真の日韓友好関係確立に向けて、急速に韓国が変わりつつある、と思いたいところですね。
そうなると、韓流ブームこそあったけれど、日本の韓国観の旧態依然さが気になってきます。(http://www.nikkei.co.jp/neteye5/suzuoki/index.html(4月3日アクセス)参照。)