太田述正コラム#1164(2006.4.5)
<宗教の治癒延命効果>
(まぐまぐ・E-Magazine以外の読者の方には今回、幽霊メルアド検出・削除目的で、ホスティング会社のサーバーを経ずに直接コラムをお届けします。次回は約1ヶ月後です。)
1 始めに
先進国の中で最も信心深い人の割合が多い米国では、宗教に関わる面白い研究が盛んに行われています。
公表されたばかりの、宗教と病気の治癒、及び宗教と延命に関する研究を紹介しましょう。
2 宗教と病気の治癒
かつては日本でも、権力者や金持ちが病気になると、その平癒のために加持祈祷が行われたものです。
例えば、平清盛が高熱を発した時には、病気平癒祈祷が、僧侶の主導の下、本人・家族・親戚・友人が一堂に会して行われました(典拠省略)。
従来から、本人や家族が行う病気平癒祈祷にそれなりの効果があることはおおむね証明されています。
それでは、全くの赤の他人(=本人・家族・親戚・友人以外、そして自分の属する宗教団体以外)による病気平癒祈祷(third-party intercessory prayer on behalf of patients)の場合はどうなのでしょうか。
このたび米国で、心臓の外科手術を受けた約1,800人を対象に、10年近くにわたって多大の研究費を使って行われてきた研究の成果が公表されました。
それによると、祈祷(注1)が行われるかどうか分からないと手術前に告げられた場合は、祈祷が行われれなかった患者グループについても祈祷が行われた患者グループについても手術後に問題(complications)が生じたのは51??52%とほぼ変わらなかったのに、祈祷が行われると手術前に告げられて祈祷が行われた場合は、患者の59%に手術後問題が生じたのです。
(注1)(キリスト教以外の宗派が参加を拒んだため、)祈祷は、二つのカトリック教会と一つのプロテスタントの教会において、患者の手術直前から始めて一日1??4回、14日間にわたり、患者の名前と名字(イニシャルのみ)及び病気平癒の文言である「手術が成功し、速やかに回復し術後に問題が生じませんように」を必ず含む形で行われた。
つまり、第一に祈祷は患者の平癒度に全く影響を及ぼさないこと、第二に祈祷が行われることを知っているとかえって悪影響があること、が分かったわけです。
後者については、病気平癒の祈祷が行われると告げられると、患者が、それは自分が重篤だからではないかと疑心暗鬼に駆られるからではないか、という意見が有力です(注2)。
(以上、http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,1744493,00.html、及びhttp://www.nytimes.com/2006/03/31/health/31pray.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print(どちらも4月1日アクセス)、並びにhttp://www.csmonitor.com/2006/0403/p13s02-lire.html(4月3日アクセス)による。)
(注2)この研究に対しては、研究対象となった患者の95%が、家族・親戚・友人・自分の属する教会が自分の病気平癒の祈祷をやってくれると思っている以上、赤の他人による祈祷効果だけを抽出できていない、という批判がある。ちなみに、これら患者の三分の二が、宗教に病気平癒力あり、と信じている。
3 宗教と延命
このたび公表された、米国でのもう一つの研究によれば、毎週自分が属する宗教団体の行事に参加している人は2??3年延命し、規則正しく運動をしている人は3??5年延命し、コレステロールを減らす薬を服用している人は、2.5??3.5年延命することが分かりました。
しかし、以上の三つの手段は、いずれもカネがかかるのであって、一年あたりの延命効果の経費を計算すると、毎週宗教団体の行事に参加する場合はお布施がかかって3,000ドル??10,000ドル、規則正しく運動する場合はアスレチック・クラブ費がかかって2,000ドル??6,000ドル、コレステロールを減らす薬を服用する場合は薬代が4,000ドル??14,000ドルかかるのだそうです。
どれを選ぶか、悩ましいところですね。
(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4876666.stm(4月5日アクセス)による。)
4 感想
こんな研究まで行われているのは、米国における人間科学の研究の活発さを示すものではありますが、米国は宗教フェチの異常な国だなあと改めて感じます