太田述正コラム#11672006.4.6

<胡錦涛の対日スタンスのゆらぎ(その2)>

一つは、中共の工業製品が昨年来、インド亜大陸や東南アジア諸国に対する価格競争力を急速に失いつつあることです。

労働コストは二桁ずつ上がりつつあるし、人民元は切り上げられ、石油等エネルギーコストも鰻登り状態だからです。

(以上、http://news.ft.com/cms/s/6bc1de9e-b9ce-11da-9d02-0000779e2340.html(3月23日アクセス)による。)

もう一つは、中共での世論調査によれば、78.8%10年前より収入が増えたとしているのに、85.3%は生活の負担が重くなったと答えていることです(注3)。

(以上、http://www.sankei.co.jp/news/060323/kok045.htm(3月23日アクセス)による。)

(注3)これは、1996年から2005年までの10年間で、中共国民の収入の平均上昇率は消費者物価指数の上昇率を上回っているので、本来は生活が楽になっているはずであるところ、消費者物価指数の中に、住宅費・教育費・医療費が十分反映されていないからだ。

例えば、住宅価格は1世帯の年収の3倍から6倍が正常とされるが、中共の都市住民は住宅購入のために平均13.4年分の年収をつぎ込んでいる。また、大学の1年間の学費は、20年前に比べて25倍になっている。更に、健康保険制度が未整備である中で、医療費の総額はこの20年で40倍になり、個人負担も医療費の21.2%から55.5%に膨れ上がっていることが背景にある。最近ではこれに加え、老人介護費が急速に増えつつある。

  このように、中共の経済が、客観的に踊り場にさしかかっている上に、中共の平均的な人々が経済成長の恩恵に全くあずかっていないと感じているとすれば、共産党の権力維持に黄信号が灯っていることになります。

そんな時に、胡錦涛政権が日本との経済関係を悪化する懼れがあると思っておれば、政治面において、日中を一層離間させる、靖国問題の蒸し返しを行うはずがありません。

4 絶好調の日中経済関係

 しかし、昨年来の日中政治関係の悪化(注4)にもかかわらず、日中経済関係は一層緊密化しています。

 (注4)昨年4月には、昔からの歴史認識問題に加え、日本の国連安保理常任理事国入り問題や領土問題ないしエネルギー資源問題があって、反日行動が起きた(コラム#687689??700702??707712713717718721)。

 2005年の日本の対中共直接投資は自動車やエレクトロニクス関係企業を中心に、その前年に比べて19.8%も増え、史上最高の65億米ドルに達しました(注5)。

 (注52005年の中共への外国直接投資総額は約600億米ドルだった。

 その背景には、中共はこれまで、低賃金が売り物の日本の企業の生産基地であったところ、最近では、その巨大な消費者を当て込んで日本の企業が製品を売り込む先になりつつある、という実態があります。

(以上、http://news.ft.com/cms/s/8c91360e-c2fe-11da-a381-0000779e2340.html(4月4日アクセス)による。)

中共の人々の対日感情も、一層好転しています。

中共当局のお声掛かりがあったと思われますが、3月半ば、中共の中央テレビ(CCTV)の海外ドラマチャンネルのゴールデンタイムに日本ドラマ「白い巨塔」が登場し、大ヒットしたほか、上海の地方局では「女系家族」が放送され、これも大人気になりました。

昨年の4月には、日貨(日本製品)排斥運動参加が呼びかけられていた中共のインターネットでは最近、日本ドラマへの熱烈な賛美があふれており、「もう韓流は終わり、これからは日本ドラマだ」という声まで出ています。

(以上、http://www.sankei.co.jp/news/060405/kok006.htm(4月5日アクセス)による。)

 ですから、胡錦涛政権としては、日中政治関係が一層冷え込んだとしても、両国の経済関係に全くマイナスの影響はない、とふんだに相違ないのです。

 つまり、日本の政治ないし政治家達が、胡錦涛政権に徹底的にコケにされている、ということだと私は思うのです。

5 コケにされる日本の政治と政治家達

(続く)