太田述正コラム#1175(2006.4.10)
<パレスティナ情勢の動態的均衡続く(その4)>
私の意見をつけ加えれば、このように自由・民主主義が、アラブ世界の中ではめずらしく、パレスティナに根付きかけているのは、自由・民主主義のイスラエルの占領下にパレスティナが置かれてきたからこそでしょう。
好むと好まざるとにかかわらず、あらゆる面でパレスティナの人々はイスラエルに影響を受けているのです。
(2)安堵し憐憫を示すイスラエルの人々
パレスティナ議会選挙でのハマスの勝利に対するイスラエルの人々の心中を推し量れば、「安堵」と「憐憫」という二つの言葉で形容できるのではないでしょうか。
「安堵」とは、これからは、言っていることとやっていることが食い違っているファタ系(注4)ではなく、言行一致のハマスが相手なので、イライラしなくて済む、ということです。
(注4)ここではファタ系とは、ファタ及びファタと提携関係にある政治組織を指す。ファタ系は、自分達の息のかかったテロ組織を泳がせてきた経緯がある。これらテロ組織は、必ずしもファタ系の指揮統制に服していない。(しかも、ファタ系もこれらテロ組織も、腐敗している。)
「憐憫」とは、イスラエル政府はもとより、米国政府もEUも、これまでハマスをテロリスト団体とみなしてきた以上、ハマスが牛耳るに至ったPAへの資金援助は控えざるを得ず、その結果、パレスティナの人々が苦しむだろうというのが第一点であり、パレスティナの人々がハマスとファタ系の間の内紛に苦しむだろうというのが第二点です(注5)。
(以上、http://www.nytimes.com/2006/01/29/international/middleeast/29israel.html?pagewanted=print(1月29日アクセス)を参考にした。)
(注5)ハマスが議会選挙で過半数の議席をとったと言っても、重要案件を可決するために必要な三分の二の議席には達していない(C)こと、しかもPAの議長は、まだ長い任期を残すファタのアッバス氏であり、ハマスとファタ系は共棲(cohabitation)を強いられるところ、カネの配分や諜報・治安機関を中心とする権力の配分をめぐって両者間の軋轢は避けられない。それ以上に困難なのは、ファタ系の息のかかった(テロを続けている)テロ組織とハマスの(テロを控えている)武力組織との平和共存だ。
上記のようなイスラエルの人々の心中が露呈したのが、3月29日に実施された、イスラエル議会の総選挙の結果です。
すなわち、投票率は史上最低の63%でしたし、カディマが第一党になったものの、総議席120中、予想された三分の一弱ではなく四分の一程度しか議席をとれませんでした。
(シャロンが健在であったならば、もう少し投票率も、カディマの得票率も高かったでしょうが、)「テロ組織である」ハマスがPAを牛耳るに至ったにもかかわらず、イスラエルの人々が対して懸念を抱いていないことが見て取れます。
カディマは、一方的境界画定・撤退政策に賛同する諸政党と連立を組んで引き続き政権を担い、シャロンの置きみやげであるこの政策を淡々と推進していくことになるでしょう。
(以上、http://www.time.com/time/world/printout/0,8816,1178100,00.html、及びhttp://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,1741953,00.html(どちらも4月10日アクセス)を参考にした。)
(続く)