太田述正コラム#1191(2006.4.18)
<米退役将軍達のラムズフェルト批判(その2)>
(コラム#1189の「つい最近まで米統合参謀本部作戦部長を勤めたニューボールド(Greg Newbold)陸軍中将」は、「2000年から2002年まで米統合参謀本部作戦部長を勤めたニューボールド(Greg Newbold)海兵隊中将」の誤りでした。)
ラムズフェルト国防長官を批判し、その辞任を求めているのは、既に退役した将軍達なのだから、単なる市民グループの声に過ぎないというわけにはいきません。
第一の理由は、彼らが軍人の現役幹部の多数の意見を反映していると考えられることです。
その証拠に、ニューボールド退役海兵隊中将は、現役の軍人幹部らにラムズフェルト批判の声を挙げよと促していますし、バティスト退役陸軍少将は、ラムズフェルトに批判的な気持ちが現役将軍達の間で蔓延しており、ラムズフェルトが軍事的指導者達とその意見に敬意を払っていないという認識はほぼ全員が抱いている、と述べているところです。
ちなみに、ニューボルトは、次期海兵隊司令官と噂されていたにもかかわらず、(同僚達は退官の理由を知っていたけれど、大統領も米国の公衆も知らないまま)目前に迫っていた対イラク戦に反対して自ら退官した人物ですし、バティストは、将来、全軍でナンバーツーのランクへの昇任が噂されていたにもかかわらず、これ以上ラムズフェルトの下で仕事をしたくなかったため、イラクへの戦列復帰と中将への昇任の内示を蹴って辞任した人物です。
(以上、スレート前掲及びhttp://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,1753267,00.html(4月14日アクセス)による。)
第二の理由は、彼らの本当の狙いが、ブッシュ大統領の批判にあると考えられることです。
このことを示唆しているのはニューボールドだけですが、他のお歴々も陰ではそう言っているといいます。
彼らがあからさまにブッシュ批判を行わないのは、戦争中に軍の最高司令官を表だって批判することは避ける、という(退役軍人を含めた)米軍人の暗黙の掟があるからです。
この掟が破られた例が過去になかったわけではありません。
1951年にマッカーサー(Douglas MacArthur)がトルーマン(Harry S. Truman)大統領と朝鮮戦争に関し次に打つべき手をめぐって対立して馘首されたケースがそうですし、そのほか、リンカーン(Abraham Lincoln)大統領批判を行ったマクレラン(George McClellan)大将の例や、マイナーなケースですが、カーター(Jimmy Carter)大統領の対韓政策を批判して馘首されたシングローブ(John Singlaub)少将の例があります。しかし、これらは皆単独で大統領に刃向かったケースであり、今回のように集団で「叛乱」したわけではありません(注3)。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/04/14/AR2006041401451_pf.html(4月17日アクセス)による。)
(注3)米空軍がジョンソン(Lyndon Johnson)大統領がベトナム戦争の空爆対象を自ら一つ一つ決めることに不快感を示したケースや、1993年には軍部がクリントン大統領の同性愛者を兵士として認める政策に異議を唱え、政策をトーンダウンさせたケースがあることはある(タイム前掲)。しかし、これらは集団による「叛乱」とは到底言えない。
第三の理由は、彼らの声が、米国民の間に広汎に見られる、対イラク戦及び米イラク政策への批判と基本的に相通じるものがあることです。
米国民の多くもまた、ラムズフェルトが少なすぎる兵力で対イラク戦を実施したこと、イラク軍を廃止したこと、彼よりはるかに戦闘経験が豊富な人々の意見に耳を傾けなかったこと、そしてイラクの囚人達への虐待に十分な関心を抱かなかったこと、は間違っていたと感じているのです。
(以上、タイム前掲による。)
(続く)