太田述正コラム#11922006.4.19

<よみがえる米帝国主義論(その1)>

1 始めに

 日本を含め、世界の左翼の間では、かつて米帝国主義批判論が当たり前のように語られていました。

 最近米国で上梓された、キンザー(Stephen Kinzer)の’ Overthrow America’s Century of Regime Change From Hawaii to Iraq, Times Books‘は、左翼でも何でもない、ニューヨークタイムスの海外特派員を歴任した著者によって書かれたものですが、中身は昔懐かしい米帝国主義批判論です。

しかし、それが現在ベストセラーになっているというのですから、米国の人々がいかに自信喪失に陥っているかが分かろうというものです。

それでは、この本の内容をかいつまんでご紹介しましょう。

(以下、特に断っていない限りhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/04/13/AR2006041301733_pf.html(4月16日アクセス)、http://www.nytimes.com/2006/04/16/books/review/16lievan.html?pagewanted=print(4月17日アクセス)、http://www.latimes.com/news/nationworld/iraq/complete/la-et-book3apr03,1,853483.story(4月19日アクセス。以下別記しない限り同じ)、http://www.buzzflash.com/reviews/06/04/rev06051.htmlhttp://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2006/04/09/RVGNSGUDRI1.DTL&type=bookshttp://btobsearch.barnesandnoble.com/booksearch/isbnInquiry.asp?z=y&btob=Y&endeca=1&isbn=0805078614&itm=1http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=5325069、による。)

2 キンザーの指摘

 米国による外国政府転覆の最初の例は、1893年に行われたハワイのリリウオカラニ(Liliuokalani)女王の強制退位だ。

 これは、ハワイの(haoleを呼ばれていた)少数派たる白人入植者達が、米海軍、ホワイトハウス、そしてハワイの米国政府代表部とつるんで実行したものであり、そのねらいは、民族主義的傾向を強めつつあった女王を退位させて、ハワイ王国を米国に併合し、無関税でハワイ産の砂糖を米本土に輸出するところにあった。

 このように、公然または非公然の経済的目的で、外国政府を転覆する試みは、米国のお家芸となり、一番最近の、対イラク戦によるフセイン政権打倒に至るまで、幾度となく繰り返されてきた。

 もとより、英仏等の列強も米国と同じようなことをやってきた。

 しかし、米国の場合、無惨なのは、その大部分が、不必要な政府転覆であり、中長期的には米国の評判を落とし、米国に多大な不利益をもたらしたことだ。民主的に選ばれた指導者や、民衆の広汎な支持のある指導者を追放したような場合は、特にそうだ。

 例をいくつ順不同で挙げよう。

 1953年に、米CIAは英国と共謀して、セオドア・ローズベルト大統領の孫(Kermit Roosevelt)の指揮の下、石油国有化を行おうとしたイランのモサデグ(Mohammed Mossadegh)・・民主的に首相に就任・・を容共的であるとしてクーデターで追放し、シャーを復権させ、イランを専制的体制に逆戻りさせた(コラム#109203771)。

 しかしこれは、イラン民衆に反米・反シャー米感情を植え付け、1979年のイスラム革命を引き起こし、イランの対米絶縁状態をもたらすことになる。現在世界の注目の的となっている、イランの核兵器開発問題の淵源は、米国によるこの1953年の政府転覆にさかのぼる、と言っても過言ではないのだ。

(続く)