太田述正コラム#11942006.4.20

<緊迫化する竹島問題(その1)>

1 始めに

日韓両国が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)周辺を含む排他的経済水域(EEZ)・・竹島の北方から若狭湾沖、能登半島の西方を結ぶ長方形の海域・・で海上保安庁が海洋調査を予定していることに韓国政府が強く反発している問題を取り上げます。

なお、本シリーズで、竹島の領有権問題そのものの中身に触れるつもりはないことを最初にお断りしておきます。

2 対立の構図

日本政府は、上記海域について、その一部では約30年前に測量を行ったものの、戦後一度も測量を実施していない部分もあるところ、6月21??23日にドイツで海底地形の名称に関する国際会議が予定されていて韓国側が海底地形に独自の名称をつける動きがあることから、それに対抗する形で最新のデータに基づいて新たな海図を作製することとし、そのため、今回測量を行おうとしているものです。

日本政府は、国連海洋法条約(注1)上、たとえ韓国(他国)が排他的経済水域と主張している海域であっても、他国への事前説明なく海洋調査ができるとの考えであり、20日にも測量船2隻を現場海域に派遣する予定でしたが、天候不順のため、この両船は鳥取県の境港沖合に停泊して様子を見ています。

(注1)私は1981年、国際連合海洋法会議日本政府代表代理として、海洋法条約を策定するためのジュネーブの会議に出席したことがある。

 

これに対し韓国では、韓国国会は19日、「独島(竹島)近海の水路測量計画の即時中断」を求めるとともに、「日本政府による独島領有権主張の内容を高校歴史教科書に載せようとする企て」にも反対し、韓国政府に「日本の挑発を阻止する実質的で強力な対策」を促す決議を本会議出席241人(定数299)の満場一致で採択する等、朝野を挙げて強く反発しています

(以上、http://www.asahi.com/politics/update/0419/006.html、及びhttp://www.asahi.com/politics/update/0420/002.html(どちらも4月20日アクセス)による。)

3 朝鮮日報の論調

 では、いつも私がフォローしている朝鮮日報は、本件についてどのような論調を展開しているでしょうか。

 最も印象的なのは、同紙日本語電子版では、20日早朝、まだ紙面の日付が19日のままでしたが、本件に関する記事が筆頭記事ですらなかったことであり(注2)、また、同じく前日付けの英語電子版では、本件が筆頭記事ではあったものの、これがひとひねりきかせた含蓄のある内容の論説(社説)であったことです。

 (注2)筆頭記事は、トヨタが今年の年末に発売を予定しているレクサスLS460をめぐり、この車が世界の最高級自動車市場の勢力図を変えるかもしれないという見方が出ていて、ベンツ、BMW、アウディなどの世界高級自動車メーカーが戦々恐々としている、という記事だった(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/19/20060419000036.html。4月20日アクセス)。

 これが、いかに「ひとひねりした」「含蓄のある」論説かについて、まずご説明しましょう。

「日本の調査船の問題水域に対する測量活動を徹底して阻止しなければならない。」とか「韓国政府がまっとうな対応ができないのであれば、国民が代わりに立ち向かうほかない。国民一人一人が独島を守りきろうとする決然とした意思の下、次の行動を準備するときだ。」というあたりは額面通りに受け取るべきではなく、避雷針に過ぎません。

この論説の真意は、「しかし日本との戦いは海上で繰り広げられるだけではない。国際社会という舞台でも同時に進行する戦略と戦術を要する戦いでもある。日本の調査船は国際海洋法の漁船と同じような民間の船舶ではなく、政府の船舶に分類される。海洋法では政府船舶は領海内でも拿捕できないとされている。したがって、海洋警察が日本の船舶を拿捕する場合、日本は直ちにこの問題を海洋法裁判所に持ち込むだろう。そうなると独島とその周辺海域は国際社会において紛争地域として浮上し、拿捕行為に対する判決結果も日本に有利になる可能性が高い。日本の挑発戦術はこのようなシナリオを基にしている。」という、本件での韓国政府の軽挙妄動への警告と、「韓国政府は、日本政府が1978年に今回測量活動を行う水域に日本の名称を<つけて>国際機構に登録した後、27年間放置してきた。日本が独島に黒い手をしのび寄せていることは、大統領の言葉のように「静かな外交」のせいではない。それは国家と国民と国土を防衛する本来の使命を忘却したまま自主外交という時代錯誤なスローガンの下、誤った方向へとさまよい続けたせいだ。」という、本件を借りた、ノ・ムヒョン政権の(対北朝鮮・対米・対日)政策そのものの批判にあるのです。

 (以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200604/200604190025.html、及びこれと同じ内容のhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/20/20060420000002.html(どちらも4月20日アクセス)による。)

 本件に関するすべての記事に、このような社としての姿勢が貫かれています。

 20日付のもう一つの記事は、「盧大統領は<18日、>「(独島問題を扱ってきた静かな外交という)対応路線をずっと維持していくのかも決めなければならない時点に至ったようだ」と述べた。・・盧大統領はこれまで独島問題では静かな外交を行ってきたが、対日外交では常に強攻策をとってきた。<こ>の発言もそうした脈絡で理解できる。<しかし、>去年初めから始まった盧大統領の相次ぐ強攻<策は>日本に通用していない<ばかりか、>日本の中で・・韓国政府に対する不満がたまって<しまった。だから、独島問題で強硬策に切り替えて、実効性があるとも思えない。それに第一、この独島問題に関する>盧大統領の発言に<韓国の>外交官らは当惑した表情を見せている。独島問題を国際紛争化しようとする日本の意図に巻き込まれないようにしながら、韓国の断固たる態度を見示せる静かではない外交という妙案はなかなか見出せない・・。<それもそのはずであり、>国際的に<見て>実効的領有権を持つ国が騒ぎ立てるのは珍しい<からだ>」とノ政権の対日政策を過激なまでに嘲笑しています(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/20/20060420000019.html、及びその続きのhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/20/20060420000020.html(4月20日アクセス))。

 そして同日付の更にもう一つの記事は、本件について、安倍官房長官が陣頭指揮をとっているとし、この安倍官房長官が日本の次期首相に就任することはほぼ間違いないこと、拉致問題で強硬姿勢をとったことが契機となって彼が首相候補として急浮上したこと、を指摘し、安倍時代が来たら韓日関係はさらに難しくなる、との観測を伝えています(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/20/20060420000030.html、及びその続きのhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/20/20060420000031.html(4月20日アクセス)。この記事は、ノ政権の対日政策を何とかしないと大変なことになる、という警告を発しているのです。

(続く)