太田述正コラム#12152006.5.3

<米英国民の健康度(その1)>

1 始めに

 壮年(55歳から64歳まで)の、最近の移民ではない非ラテンアメリカ系の白人を対象にした、米英両国民の健康度についての研究の結果が学術誌に発表されました。

 その結果は予想に反する驚くべきものだったのですが、米ランドコーポレーションと英ロンドン大学の共同研究だったというのに、電子版を見ると、英国の主要メディア(ガーディアン・ファイナンシャルタイムス・BBC)が取り上げているというのに、米国の主要メディアはNYタイムス以外は無視してかかっています。(ロサンゼルスタイムスは、健康のページにAP電の見出しだけを掲載してお茶を濁しています。)深刻でいかんともしがたい話は載せない、ということなのでしょう。

 まずは、この研究の結果をご紹介しましょう。

(以下、特に断っていない限りhttp://www.nytimes.com/2006/05/03/world/europe/03health.html?pagewanted=printhttp://news.ft.com/cms/s/6c9dee06-d9ff-11da-b7de-0000779e2340.htmlhttp://www.guardian.co.uk/science/story/0,,1766314,00.html、及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4965034.stm(いずれも5月3日アクセス)による。)

2 英国の壮年は米国の壮年より健康

 この研究は、米国の壮年と英国の壮年計約15,000名を対象に、米英をそれぞれ、教育及び所得水準上中下の三グループに分け、その健康度を(糖尿病・高血圧・心臓疾患・狭心症/動脈硬化・脳卒中・肺疾患に係る)自己申告と血液検査で(コレステロール値等を)把握するという方法で行われたものです。

 その結果は、予想されたように、米英どちらでも、健康度の順番は上のグループ・中のグループ・下のグループとなった(注1)のですが、米国の壮年の平均的健康度は英国の壮年よりも下(注2)で、しかも、米国の上のグループの健康度は英国の下のグループの健康度と同程度だ、というショッキングな結果が出たのです。

 (注1) 米国の方が英国より上のグループと下のグループの所得格差は大きいが、上のグループと下のグループの健康度の違いは、両国とも同じようなものだった。

(注2)糖尿病は米国(12.5%)・英国(6.1%)、心臓疾患は米国(15.1%)・英国(9.6%)、肺疾患は米国(8.1%)・英国(6.3%)、癌は米国(9.5%)・英国(5.5%)。また、高血圧は米国が英国より10%多い。

 ちなみに、米国の壮年の方が英国の壮年よりも肥満度が高く、運動量も少ない一方で、飲酒量は少ない(注3)のですが、これらの要素を除外したとしても、上記結果に大きな変化はないことも分かりました。

 (注3)喫煙率は両国とも20%程度で同じ。

 

なぜこの結果がショッキングであったかと言うと、一人当たり医療費支出が、購買力平価で、米国は5,274米ドルなのに英国は2,164米ドルに過ぎず、2倍以上の開きがあるにもかかわらず、健康度では逆の結果が出たからです。

3 その原因?

 (1)その原因?

 米国では65歳未満の人の15%は医療保険に入っておらず、また不十分な医療保険にしか入っていない人の割合はもっと多いのに対し、英国では公的医療制度(National Health Service)で全国民がカバーされていることが一見関係しているように見えますが、上のグループは、基本的に医療保険でカバーされており、英国の公的医療制度より質の高い医療を受けられるにもかかわらず、健康度が英国の下のグループ並の健康度しかなかったのですから、どうやら関係はそれほどなさそうです。

 そこで、米英両国の生活環境全般・・仕事・失業率・コミュニティーの特質・居住コミュニティー、等々・・の違いが健康度の違いをもたらしているのではないか、という説が唱えられています。

(続く)