太田述正コラム#1216(2006.5.4)
<米英国民の健康度(その2)>
(お知らせしたように、4、5日は家族旅行のため、コラムの上梓はありません。この間、私のホームページやブログで過去のコラムに目を通されることをお勧めします。)
(2)幸福論
鍵は、幸福論にありそうです。
(以下、http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/happiness_formula/4783836.stm(5月3日アクセス)による。)
幸福は、快楽同様、漠然とした概念やムードではなく、現実(real)であり、計測可能である、というのが最近の英米の社会科学者の通説になりつつあります。
計測するためには、例えば、一人一人に10段階に分けたとしたら、あなたはどれくらい幸福ですか、と聞けばよいというのです。
現在さまざまな実験が行われているのですが、10年以内に、ある国の政府のパーフォーマンスが、その国の国民の幸福度によって評価されるようになる、と言われています。
まだ、どちらが原因でどちらが結果かは必ずしもはっきりしていないのですが、幸福な人は健康だし、長生きするし、抵抗力が強い(resilient)し、高い業績を挙げるという傾向が見て取れるのだといいます。
しかし、英米では、過去50年間にわたり、生活水準は大いに向上したけれど、人々の平均的幸福度は全く増えておらず、むしろやや低減した、という研究もあります。
本来は、所得が増えれば幸福度は増えるのですが、一人当たり所得が1万米ドル程度を越え、衣食住が足りる状態になると、それ以降は幸福度は増えなくなる、というのです。
そして、その理由として、われわれは快楽に慣れてしまうこと、比較的身近にいる他者と比較してしまうことが挙げられています。
それでもどうしてもより幸福になりたい人は、第一に家族や友人等の他人との関係を量質ともに高めていくこと(注4)、第二に人生に宗教的・哲学的意義を見出すこと、第三に意義があり、しかも楽しい仕事を持つこと(注5)、だそうです。
(注4)一人の友人の価値は5万英ポンドに相当する、また、結婚は男性の寿命を7年、女性の寿命を4年延ばす、といった研究もある。だからこそ、配偶者を失うようなことがあると、その打撃は大きい。
(注5)だから、仕事を失うようなことがあるとその打撃もまた大きい。
(3)私の考え
米国の壮年が英国の壮年より健康度が低いのは、幸福度が低いからではないでしょうか。
また、米国人の幸福度が英国人より低いのは、米国が裸の個人主義社会であって、真の友人を持ちにくい社会であり、しかも仕事が自分の欲望を充足させるためのカネを獲得する手段と考えられていることから、仕事に意義を見出せず、仕事を楽しいとも感じられない人が多いからではないでしょうか。
身から出た錆かもしれませんが、このように不幸せで不健康な米国人が、そのエリートを中心に馬車馬のように働いて高GDPを叩きだし、かつまたその非エリートを中心に血と汗を流して世界秩序の維持に腐心し、その結果ますます不幸せで不健康になるという悪循環を繰り返しているのだとすれば、われわれ日本人としては、心底米国人に同情せざるをえませんね。
(完)