太田述正コラム#1237(2006.5.16)
<中共の科学者達の堕落>
1 ある中共科学者の不祥事
陳進(Chen Jin) は、2003年に中共初のデジタル信号処理プロセッサー(digital signal processing(=DSP) computer chip。携帯電話機やデジタルカメラに用いられる)の「漢芯(Hanxin=Chinese chip)」シリーズを開発したとされる中共の科学者ですが、これが完全な詐欺であったことが12日に明らかになりました。
彼は、上海交通大学(Shanghai Jiaotong University。江沢民前中共主席の母校)でこのDSPの開発に成功したとされていたところ、実際にはこれは米モトローラ社のDSPのコピーだったのです。
陳は1968年生まれで、1991年に渡米して米国のテキサス大学オースティン校で1998年にコンピューター工学のPh.Dをとってモトローラ(Motorola)社の米国の研究所に入り、中共の招請に応じて2000年に帰国し、モトローラ社の中共の研究所勤務を経て上海交通大学の教授に就任しました。
そして、わずか2年で、一秒間に2,000万回命令処理のできるDSPを開発したと称したのです。
彼は、国産技術の開発に大わらわの中共において、若手の有望な科学者の一人として、表彰され、多額の補助金を獲得し、上海交通大学のミクロ電子大学院の初代学院長に就任しました。その彼の研究室を香港の前主席や中共の温家宝首相が視察に訪れたこともあります。
こうして陳は、200人もの研究者からなる国家プロジェクトの長として、また、いくつものハイテク企業のオーナーとして我が世の春を謳歌するに至っていたのです。
ところが、昨年12月から、内部通報者がネット上で、あるいは交通大学当局や中共政府に対し陳の告発を始め、やがて漢心の第一号はモトローラのDSP 56800Eそのものであることが判明し、5月12日、陳は交通大学から馘首され、中共政府は陳を長とするプロジェクトを停止し補助金返還要求を行ったのです。
2 中共科学界の暗部
上記不祥事は、盗作・偽造・腐敗だらけの中共の科学界の暗部のほんの一端が露見した、ということのようです。
もともと中共は、知的財産権侵害大国であり、ブランド品やDVDのコピーで悪評高いのですが、最近中共は、ハイテクの盗作・偽造・詐欺でも世界の顰蹙を買っています。その背後には、先進諸国に科学技術においても追いつこうとする中共の国策がある、という指摘もあります。
米商工会議所は16日、中共における技術の海賊行為を非難する「白書」を公表しましたし、先週は米国在住の120人の中共科学者が中共科学部に対し、中共の研究モラルの低下が著しく、国の評判は地に堕ちている、と指摘する公開書簡を送りました。
中共の社会科学界のモラルは自然科学界より更にひどい、という声も挙がっています。
しかも、暗部が露見するのは例外であって、露見した場合でも、陳のように関係者が「処罰」されるのはめずらしく、科学界の大御所、特にその大御所が中国共産党員であるような場合は、誰もその首に鈴をつけられる者はいないと言われています。
(以上、http://www.nikkei.co.jp/kaigai/asia/20060512D2M1201U12.html、http://www.nytimes.com/2006/05/15/technology/15fraud.html?pagewanted=print、及びhttp://www.csmonitor.com/2006/0516/p01s03-woap.html(どちらも5月16日アクセス)による。)