太田述正コラム#1253(2006.5.24)
<ジャーナリストの友人の話>
1 始めに
久しぶりにジャーナリストの友人に会ったら面白い話を色々してくれたので、その一部をご披露します。
真偽のほどは、保証しません。
2 友人の話
(1)拉致
横田めぐみさんは間違いなく自殺している。帰国した日本人拉致被害者の中に、このことを知っている人間、もしくは彼女が自殺していたとしても不思議ではないと思っている人間がいる。
ちなみに、北朝鮮側が日本側に渡しためぐみさんの遺骨については、その真贋はともかくとして、DNA鑑定ができたのは帝京大学だけであり、高熱で焼かれたにもかかわらず、鑑定結果を出せたのはおかしい。誰かが遺骨にさわり、そのさわった人のDNAが出てしまったためではないかと、英科学誌のネーチャーが指摘している。
また、めぐみさんの夫として日本側と会った人物は、本物の夫だ。
なお、既に帰国した拉致被害者以外に、生存者はほとんどいない。北朝鮮は、本件で切れるカードはこれまででほぼ切りつくしている。
(2)東シナ海ガス田
この問題では、日本のメディアは、ニュースソースたる政府関係者ともども、真実について口をつぐんでいると言ってよい。
まず、経済水域についてだが、日本は中間線説を、中共は大陸棚説を唱えているところ、日本は海上保安庁の「独断」で、中間線を防衛庁等が考えていた中間線より中共寄りにずらしたという経緯がある。
中共は日本側に配慮し、日本がかつて主張していた中間線からかなり離れた箇所でガス田の掘削を始めたのだが、その後で中間線が動いて接近してきた。
ところで、オーストラリアが大陸棚説、○○(聞いたけど忘れた(太田))が中間線を主張して争い、海洋法裁判所が判決を下しているが、中間線よりオーストラリア側にとって有利な形に境界線を引いた。だから、東シナ海の問題が海洋法裁判所に持ち込まれれば、日本が主張する中間線より、日本にとって不利な境界線が設定されることは確実だ。
なお、中共のガス田の天然ガスが、日本の主張する中間線を超えて分布しているという可能性はほとんどない。
これにも関連するが、日本の主張する中間線より日本よりの海域の地下に天然ガスはほとんどないし、あったとしても到底採算に乗らない。消費地が離れすぎていてパイプライン経費が高くつきすぎるからだ。採算に乗らせる方法としては、中共側が既に例のガス田と支那本土の間に設置したパイプラインを使わせてもらうしかない。
結局、日本がガス田を掘削するとすれば、中共との共同事業、ということにならざるをえない。
以上をすべて承知した上で、中共側は、ずっと以前から日本側海域における共同開発を提案してきたのだが、日本側は基本的にこの提案を黙殺し続けて現在に至っている。
(3)鳥インフルエンザ
鳥インフルエンザは今小康状態だが、それは現在インフルエンザを媒介する渡り鳥が北極方面に渡って行っているからだ。
その北極方面で、世界各地の渡り鳥がインフルエンザ・ウィルスを交換しあっている。
次に連中が南に戻ってきた時、何が起きるか分からない。
北米や欧州では戦々恐々としているというのに、日本はいまだにBSE問題などにうつつを抜かしている。
仮に、鳥から人間にうつったインフルエンザのウィルスと、鳥インフルエンザのウィルスが混ざり合って、人間から人間にうつるウィルスに変異し、そのたちが悪いと、10億人単位の死亡者が出る懼れだってなきにしもあらずだ。
太田さんの知り合いのジャーナリスト、ってどういう方なのですか。
オリジナルの情報は一切ないし、北朝鮮や中共の都合のいい情報をまことしやかに取り繕って言っているだけなのではないでしょうか。
(1))と(2)です。
全部、ネットで発信されている怪しい情報です。
(1)も(2)も敵方が加工した情報ですよ。
真偽のほどを慎重に判断した上で発信していただきたいと思います。
失礼。
その2)について自分が見聞きした話では、「確かに経済水域に関する主張では中国有利となりそうだ。しかし、そもそも経済水域は紛争当事国の領土が確定していないと判断しようが無い、つまり、尖閣諸島の帰属が先決問題となる。で、その尖閣問題については完全に日本有利である。従って結論としては、国際法と国際裁判所に従って紛争を解決するなら、日本は大きな果実(尖閣)を取り、中国は小さな果実(ちょっとした水域、しかもガスはどうやら採算不成立)を取ることになる」というモノでした。
敵方が加工したかどうかは知りませんが、全体として日本に都合のよい情報になっていると思います。
>全部、ネットで発信されている怪しい情報です。
(1)も(2)も敵方が加工した情報ですよ。
(1)は知りませんが、東シナ海のEEZについては、正論。ぜんぜん怪しくない。国連海洋条約でいけば、均衡原則によって決定されるので、日本の主張する中間線より、日本側にずれる公算が高い。ちなみに日本の主張する中間線は、「ここを基線にして(当然、条件によってずれる)、境界を画定しよう」というもので、「ここが境界線」というものではありません。
> まず、経済水域についてだが、日本は中間線説を、中共は大陸棚説を唱えているところ、日本は海上保安庁の「独断」で、中間線を防衛庁等が考えていた中間線より中共寄りにずらしたという経緯がある。
この情報自体が嘘じゃないんですか。嘘でしょうが。
私は日本政府が「中間線論」を唱えること自体が外交的に間違っていると思います。
私は平松茂雄さんの本を読み、彼の講演を聞きましたが、「中間線論」はアウトなんですよ。
少しはまともな事実に則って議論してほしいですね。「自由」「江戸前」さん。日中中間線ってどうなんですかね。
そういう発想、設定でいいですか。
>まず、経済水域についてだが、日本は中間線説を、中共は大陸棚説を唱えているところ、
これは、正しいです。
日本は海上保安庁の「独断」で、中間線を防衛庁等が考えていた中間線より中共寄りにずらしたという経緯がある。
この経緯は知らない。
>私は日本政府が「中間線論」を唱えること自体が外交的に間違っていると思います。
さぬきうどんさんが中間線を否定するなら、どこを基準にするべきだとお考えでしょうか。中間線を基準として均衡原則でEEZを確定しようというのは、国際法の本義に則った至極まっとうなものだと思います。
ちなみに、この考えは、国際司法裁判所に提訴すればこうなるだろうというものです。原則は両国の同意ですので、日本や中国の主張する基線が合致しないので、EEZは確定しません。
>私は平松茂雄さんの本を読み、彼の講演を聞きましたが、「中間線論」はアウトなんですよ。
少しはまともな事実に則って議論してほしいですね。
すいません。私は中国は「大陸棚」、日本は「中間線」と主張している事実を踏まえたうえで、国際法の趣旨にのっとって発言していますので、まともな事実に則って議論しているつもりです。
たぶん、さぬきうどんさんは、中国がかつての版図を取り戻す(日本併合)という野望があって、その実態的行為が、いまの東シナ海の問題である。であるから中国との話し合いは無駄であって、彼らを追い出さなければならない。というものだと思います。
しかし、それならば中間線だろうが、大陸棚だろうが全く意味がないと思うのです。どのような合意があろうが、日本を目指してやってくるわけですから、どこに線を引こうが無意味だと思います。(EEZを超えて開発するなら、軍事衝突になることを中国は覚悟しなければなりません。当然、我らが海上自衛隊の圧勝で終わりますけど。)
>「自由」「江戸前」さん。日中中間線ってどうなんですかね。
中間線を越えて中国側にEEZを確定したくても、東シナ海の大陸棚が中国側である以上は、均衡原則(この場合大陸棚も考慮されるので、中国にどうしても有利になってしまいます。)という国際法の趣旨に則って考えれば、どうしても中間線より中国側にはEEZは引けないと思います。
ですから、日本が論理的に最大限主張できるのは、中間線を基線としてのEEZ画定であると思います。それに中国の主張する大陸棚では日本側のEEZが大幅に削られてしまいますので、日本にとっては好ましくありません。ですから反対です。
>そういう発想、設定でいいですか。
んー讃岐うどんさんと私の問題設定が違うのでしょうか。中国が約束を守るか?という問題と、日本と中国のEEZ確定の主張の成否の判定は区別して考える必要があると思います。
>自由さま
丁寧なコメントありがとうございます。
きちんと答えられない私自身の不明を恥じます。
一言だけ。
日中中間線とか日韓中間線とか、当たり前のように言っていますが、これは決まったことではないんです。日本の排他的経済水域(200海里)に関して、中国側のと重複していますよね。それをどうするのかは交渉なんです。最初から日中中間線といっているようでは駄目なんです。中共は日本政府・外務省の弱腰を見越してどんどん開発しているわけです。日本政府が見過ごしていただけなんです。
中間線というのは、言わば落とし所なんです。私たちは大きな勘違いをしていると思います。
失礼します。
(1)ですけどネイチャーと日本政府が暗闘を繰り拡げているとは全然知らなかった。ためになりました。なんとなく高温で焼いて鑑定できなかったからニセモノってことにしたのかと思い込んでいました。私が鑑定の詳細を知らないのはそれもそのはず、日本政府は北朝鮮どころか日本国民にもちゃんと説明してなかったからです。まず
http://www.nature.com/nature/journal/v433/n7025/full/433445a.html
(要認証。大学のパソコンで試してください。)
でネイチャーの東京特派員が帝京大学の吉井富夫講師にインタビューを試みて、鑑定は絶対ではない、試料の混入もありうるとの言質を引き出しています。対する日本政府はこの権威ある科学雑誌に出た記事を「捏造。吉井講師からそんなこと言ってないと聞いている(細田官房長官)」と一方的に非難するという暴挙に出ます。北朝鮮絡みは全てでっち上げだと言わんばかりです。驚くべきことにこのやり取りを週刊現代以外、日本のメディアはほぼ黙殺しています。取り上げたのは中核派とか北朝鮮寄りの際物だけですね。一方、米国のメディア、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン
http://www.iht.com/articles/2005/06/01/news/letter.php
とタイム・アジア版
http://www.time.com/time/asia/magazine/article/0,13673,501050404-1042508,00.html
はもちろんネイチャーと似通った記事を書いてます。もちろんこんな科学音痴の日本政府は
http://www.nature.com/nature/journal/v434/n7031/full/434257a.html
http://www.natureasia.com/japan/digest/0504-1.php
(日本語版だったら読めるかも)
でネイチャーから科学を政治の道具にするなとお叱りを頂きます。嘘つき呼ばわりされたデイヴィッド・シラノスキー記者は
http://www.nature.com/nature/journal/v434/n7034/full/434685a.html
で、もちろん再反論します。ここでは吉井講師が警視庁科捜研の法医科長に栄転し、これは口封じ(雇用者が国になったので証人喚問が容易でなくなる)ではないかと国会で質問した民主党の首藤信彦議員を紹介しています。吉井氏の告白やネイチャーの意見は科学的には至極もっともで、骨からはめぐみさんのDNAが出て来なかった、めぐみさんの骨とは断定できない、別人の可能性があるというのが科学的には正しい言い分で、ニセモノ呼ばわりする日本政府は確かに言い過ぎです。ちなみに吉井氏のインタビュー記事を書いたのはネイチャーが最初で最後であり、分が悪い日本政府は北朝鮮ばりの情報統制をひいています。
極めつけは
http://www.nature.com/nature/journal/v439/n7079/full/439892a.html
ですね。ここでは将軍様の64回目の誕生日とともに北朝鮮がこの「科学」論争に勝利したことをお祝いする朝鮮総連のパーティーの様子が紹介されるという国辱。利は自分にあると踏んだ北朝鮮は日朝の科学者同士で結果を検討しようと提案していますが、もう後に引けなくなった日本政府はこの提案を蹴っています。外務省の公式発表
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/abd/notebook.html
を読めばよくわかりますが日本政府は鑑定は日本の法令に基づく厳格な手続を経た、十分な客観性を有するものだと言い張るばかりです。こんなのは拉致したのは13人だけ、それが公的・最終見解だと言い張る北朝鮮と同じです。自信があるんだったらデータを出せば済む話です。それが民主主義です。
ネイチャーの言葉を引用します。
「ならば日本政府は、米国の支持のもとで更なる対北朝鮮政策を取り得ただろうか。これに対する明確な答えはない。しかし、次のように問い直したらどうなるだろう。もし、どこかの海岸から米国市民が全体主義国家によって拉致され、その後25年間にわたって英語教育でスパイ養成に関わっていたら、ブッシュ大統領や歴代の大統領は、遺骨の入った袋を手にDNA鑑定結果についての論争をせずにすむだろうか。」
ネイチャーの公式訳はへたっちいのが筋金入りですが、ここで言いたいのは米国だったら自国民の人権蹂躙という深刻な問題を一掴みの灰を巡る議論に終始させるはずがないということです。 同胞をさらったのは向こうですよ。とっちめるのは私たちです。なのに、政府の不手際のせいで捏造した責任者を出せととっちめられる。拉致問題が遺骨の真贋論争へと矮小化している。これは日本政府の責任が重い。間違いの始まりはめぐみさんではない二人のDNAが出てきたときにこれではめぐみさんの骨とは断定できない、混入かもしれないから遺骨収集に携わった人たちの試料も出せ、ととっちめればよかったんです。そうすればなぜ火葬したのかとか具体的な遺骨収集の状況とかもわかったかもしれない。ネイチャーは硬直化した、間違いを認めない日本の政治を「But admitting such an error is something to which Japanese officials are inherently adverse. They may fear losing face」と論っています。しかし間違いを認めるのに遅すぎるということはない。鑑定結果を政治的に捻じ曲げたのは北朝鮮がしてきたことに比べれば大したことではない。もしかすると鑑定結果の協議を通して拉致の実態の解明へとつながるかもしれません。今からでも日本政府が誤りを認めて拉致問題解決へと前進することを願って止みません。
最後に米本昌平がいいコラムを書いています。
http://www.clss.co.jp/shinyuri/contents/02_2005July.html
後、一連の経緯はここが詳しいです。
http://www8.ocn.ne.jp/~hashingi/page027.html#K21