太田述正コラム#1260(2006.5.27)
<スラム化した都市住民の叛乱(その2)>
(2)その帰結
発展途上国の非産業化した大都市のスラムの住民を中心とする、非公式経済(アングラ経済)従事者達(露天商・日雇い労働者・子守・売春婦・自分の臓器を売る者、等々)・・新プロレタリアート・・は、10億人を優に超えるが、彼らをどうするかは、地球温暖化問題をどうするか、と並ぶ、現時点で人類が直面している最大の問題だ(注6)。
(注6)鳥インフルエンザの脅威は、シンプロレタリアート等にタンパク質を提供するために、鶏舎の高密度化(=都市スラム化!)が進展した結果や、先進国への後進国の医師・看護士等の流入の結果、増幅されている。
彼ら新プロレタリアートが流入してこないよう、米国を筆頭とする先進国は、物理的なハイテク塀の設置を含むあらゆる手段を講じている。
他方、新プロレタリアートの心をつかもうと、ありとあらゆる宗教・民族・政治運動、更には族長やギャングが競い合っている。有力なのは、インドにおいてはヒンズー教原理主義であり、中東北アフリカにおいてはイスラム教原理主義(注7)であり、サハラ以南アフリカや中米においてはプロテスタント原理主義(Pentecostalism)であり、南米においては革命的ポピュリズムだ。
(注7)イスラム教原理主義団体は社会福祉活動に従事しているケースが少なくない。また、一部はテロに従事しており、社会福祉活動とテロの両方に従事しているケースもある。
これでは先進国にしてみれば、叛乱する新プロレタリアーに包囲されつつあるように見える。
こうして米国は、麻薬戦争(drug war)ないし対テロ戦争(war on terror)と名付けて、先頭に立って予防的に戦争を始めた。この戦争は、先進国(支配者)と新プロレタリアートの間で長期間にわたって続けられることになるだろう。
なぜなら、米軍は、近代都市戦には長けているが、迷路のようで地図もなく、ハイアラーキーや中央集権的インフラもなく、高い建物もないところの、都市スラムでの戦闘は不得手だからだ(注8)。
(注8)米軍が初めてこの事実をつきつけられたのが、1993年のモガデシュ(ソマリア)での戦闘だった。
この戦争の現時点における最前線は、麻薬ギャングだらけのサンパウロとテロリストだらけのバグダッドだ。
サンパウロでは、当局側発表の過小と噂されている数字によっても、5月中旬に勃発したギャングとギャングもどきの警察との衝突で、双方で154名の死者が出たことが記憶に新しい(ここだけ、http://www.guardian.co.uk/brazil/story/0,,1780243,00.html(5月23日アクセス)による)。これは大都市のスラムにおける内戦と言ってもよい。
バグダッドの悲惨な状況は、対イラク戦後の米国の政策がもたらしたものだ。
米国は石油生産の復興には力を入れたが、農業の復興にはほとんどカネを投入しなかった。だから農村は荒廃し、砂漠化し、人々がバグダッドのサドルシティー等に流入し、スラム人口が急速に増大した。このスラムが、自爆テロ・路傍爆弾・宗派間「内戦」・犯罪、等の巣窟になったわけだ。
(完)