太田述正コラム#1277(2006.6.5)
<東大法学部群像(その1)>
1 始めに
ある読者からもらった原田武夫(敬称略。以下同様)の本を昨夜斜め読みしたところつまらなくて1時間余を無駄にしたと思ったら、本日は村上世彰によるインサイダー取引自認の新聞記事やTV記者会見(注1)を見て眉を顰めました。
(注1)村上は、5日午前、東証でインサイダー取引を自認する記者会見を行い、同日午後、逮捕された(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060606k0000m040001000c.html。6月5日アクセス)
奇しくも、卒業してもせいぜい短大卒相当に過ぎないとかねてから(コラム#1062等で)私が申し上げてきた法学部(どちらも東大)を、方や原田は中退して外務省に入ったけれど一昨年自ら飛び出した人間であり、方や村上は卒業して旧通産省に入ったけれど7年前に自ら飛び出した人間である、と極めて共通点の多い人物であり、二人を並べて月旦するのも面白かろうと考えました。
年長の村上の方から始めましょう。
2 村上世彰
(1)ドジな確信的故意犯
逮捕や起訴前に被疑者について書かれる記事の確度が非常に高いことは皆さんご存じですよね。
これは、検察が意図的に情報をリークしているからであり、いわば検察とメディアが談合してつくったニュースをわれわれはありがたく拝聴している、という図式です。
これは検察の、守秘義務違反による被疑者の人権蹂躙であり、メディアを利用した悪質な世論操作であり裁判誘導だ、と私は思うのですが、この問題はいずれ取り上げるとして、今回は先を急ぎましょう。
新聞記事をつなぎ合わせると、事実関係はざっと、「村上ファンド(MF)は大量購入していたニッポン放送株をライブドア(LD)にも購入を勧め、その上でMFとLDの両者のニッポン放送株を合わせれば、同放送を、ひいてはフジテレビを支配できるとLDに提案したところ、LDが正式にこの提案に応じたので、MFは、日本放送株を更に買いますとともにLDに時間外取引という方法での同株の購入をアドバイスし、この時間外取引等で大量にLD等に同株を売却して大儲けした」ということのようです。
これは、MFが猿回しでLDは猿にほかならず、すべてを仕切っていたのは村上だったということです。
このように村上がインサイダー取引(注2)の確信的故意犯だった可能性が高いとして、驚くべきは、その杜撰極まる犯行です。
(注2)証取法では5%以上の株式取得を公開買い付け(TOB)に準じる行為と規定し、その情報を事前に知ったうえで株式を購入することを禁じ、違反すれば3年以下の懲役か300万円以下の罰金と定めている。LDがニッポン放送株購入を応諾した以降にMFが同株を買い増した行為がこの規定に違反するインサイダー取引に当たる、と考えられている(毎日上掲)。
MF側とLD側のそれぞれ多数の人間が関与し、異なった人間が相互に累次密談をしただけではなく、メールまで交換していたのでは、何もなくても秘密が守られるはずがありません。
少なくとも、LDの粉飾問題等が立件された時点で、ニッポン放送株のインサイダー取引も露見すると思わない方がおかしいのです。
この時点で、村上は一人で全面的に罪をかぶって、MFの経営から手を引き、検察に出頭して自白するか、さもなくば、日本が犯罪人引き渡し協定を結んでいない国に資金を移した上でその国に逃亡を図るべきだったのですが、彼はどこまでも杜撰にタカをくくり、更に阪神に手を出し、シンガポールに拠点を移す、という愚行を続けた、ということです。
(以上、事実関係は、毎日上掲、http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20060605k0000m040097000c.html、http://www.sankei.co.jp/news/060605/sha009.htm、http://www.sankei.co.jp/news/060605/sha005.htm、及びhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060605/eve_____sya_____000.shtml(いずれも6月5日アクセス。以下同じ)による。
国そのものが吉田ドクトリンの下、米国に安全保障を丸投げしているという平和ボケの国だからこそ、こんなに危機管理意識ゼロの極楽とんぼのような官僚あがりができてしまうのでしょう。