太田述正コラム#1316(2006.6.24)
<日本のワールドカップ敗退>
1 始めに
このところ、国際捕鯨委員会(IWC)とワールドカップでのそれぞれの日本の戦い方に手に汗を握った何日間かを過ごしました。
前者の方がはるかに大きな意味を持ち、かつ複雑なゲームであるだけに、私はより興味があったのですが、日本のメディアはワールドカップに目を奪われ、IWCの方には目もくれなかったのは残念です。
とまれ、ワールドカップでの日本の敗退について、韓国の朝鮮日報と英国のガーディアンが面白い記事を載せていたのでご紹介しておきましょう。
2 朝鮮日報
日本対ブラジル戦の前、朝鮮日報は次のような論説を掲げました。
「ブラジルに挑む日本代表の善戦を祈る・・・日本対クロアチア戦(注1)の実況アナウンサーたちはクロアチアがシュートのチャンスを逃せば「惜しい」を連発、一方、日本がシュートを放てば「危なかった」とコメントした。そう言いながらコメントが偏っていると感じたのか「日本は韓国と同じアジアのチームだが、心情としてはクロアチアに気持ちが傾く」と注釈をつけた。第1戦の日本対オーストラリア戦ではもっと露骨だった。オーストラリアが試合終盤まで苦戦すると「うちのチームの選手たちはもっと落ち着かなければ」という言い間違いまで飛び出した。・・日本政府に対する不満をサッカーの試合にまで持ち込んだら、韓国という国をあまりにも石頭で貧弱な国であるかのように見せることになる。大韓民国も今や世界第10位の経済大国ではないか。日本のテレビは韓国戦を中継する時、「韓国は日本のライバルだが、アジアを代表して健闘することを祈っている」という言葉で始めたそうだ。果たして腹の中も同じ気持ちなのかはわからない。しかし韓国の実況アナウンサーたちの垢抜けない態度よりは一段上手だというほかない。明日未明、日本は世界最強のブラジルの胸を借りて一戦を繰り広げる。私たちも「日本は韓国のライバルだが、アジアを代表して立派に戦うことを祈る」という応援のエールを送れないだろうか。」
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/06/22/20060622000024.html。6月23日アクセス)
(注1)韓国での日本対クロアチア戦の視聴率は42.6%で、13日の韓国対トーゴ戦に次ぐ高視聴率となった。「これは6時間後に生中継される韓国対フランス戦を待つ視聴者が、早めにテレビの前に陣取った影響もあるが、韓国とともにアジア代表として出場した日本に対する関心も高く現れた」と分析されている。
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/06/19/20060619000022.html。6月20日アクセス)
産経新聞の黒田勝弘記者は、この朝鮮日報の論説を異例(?)の論評と紹介しつつ、「韓国国民の“サッカー反日”は、元はといえば日ごろの政府・マスコミ挙げての反日キャンぺーンの産物だ。「W杯サッカーでは日本びいきになれ」というのも無理な注文だろう。」と記しています
(http://www.sankei.co.jp/news/060622/kok016.htm。6月22日アクセス)
が、韓国通の黒田記者らしからぬ、朝鮮日報に厳しすぎる記事だと思います。
以上は前置きですが、日本ワールドカップ敗退の大一番、対ブラジル戦についてはどうだったでしょうか。
朝鮮日報の東京特派員は、次のように報じました。
「<この敗戦を報じる>ほとんどの番組は最後に「(日本の代わりに)韓国の頑張りに期待する」というコメントを入れた。「これからは韓国を応援する」という出演者もいた。あるテレビ解説者は「日本は1998年フランスワールドカップで3戦全敗だった。当時最後まで粘って引き分けに持ち込んだ韓国のベルギー戦(引き分け)を忘れてはいけない。それが日本と韓国の現在の違いに表れている」と話した。「韓国のためにも日本を破る」というオーストラリアのヒディンク監督の談話に歓喜した韓国とは大きな違いを見せた日本のワールドカップ最終試合の風景だった。」
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/06/24/20060624000014.html。6月24日アクセス)
同じ24日、朝鮮日報は、ジーコ監督に焦点をあて、「試合後ジーコは「私は全身全霊を日本に傾けた」と話した。しかしそのジーコの情熱をもってしてもW杯での成功を勝ち取ることはできなかった。ジーコは23日に日本代表の監督を辞任し、自身の5回目のW杯を終えた。」で締めくくる心暖まる記事も電子版に掲載しました。
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/06/24/20060624000012.html。6月24日アクセス)
何度も申し上げてきているように、(時に韜晦術を用いつつも、)朝鮮日報は、親日的紙面作りに社を挙げて取り組んできている、と私は考えているのです(注2)。
(注2)ストレートにこの社是が現れているのが、ノ・ムヒョン発言を強く批判した、同じく24日の次の電子版記事だ。「ノ・ムヒョン・・大統領は22日、独島(・・竹島)水域を守る海洋警察と会見し「日本の戦力は韓国より優れているが、韓国にも少なくとも日本が挑発できない程度の国防力はある。相手が挑発しようとした時に『利益より損することのほうが多いな』と思わせる程度の防御能力を備えることが重要だ・・日本と戦って勝つ戦闘力ではなく、東海(日本海)で突発的な事態が起きたときに対応できる程度の戦闘力を備えて欲しい」と語った。・・日本の首相が同様な話をした場合を考えてみよう。誰より黙っていないのは大統領本人だろう。5年間の任期のうち3年が過ぎた時点になっても、まだ大統領に「発言に注意して欲しい」と頼まなければならない韓国民の境遇が情けない限りだ。」
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/06/24/20060624000002.html。6月24日アクセス)
3 ガーディアン
米国のNYタイムスにせよ、ワシントンポストにせよ、米国チームの一次リーグ敗退しか報じませんでしたが、英国のガーディアンは、何と電子版の一面で日本対クロアチア戦を報じました。
(http://football.guardian.co.uk/worldcup2006/minbymin/0,,1788382,00.html。6月23日アクセス)
その冒頭が傑作です。
「この試合は、ブラジルが誰にとっても2番目の贔屓チームであることを証明した。なんてのはナンセンスだよね。だってブラジルチームはブラジル人にとっては最も贔屓のチームだからだ。まことにそのとおり。だけど今日はそうじゃない。というのは、サムライとインスタントラーメンとゴジラと寿司と富士山と昇る太陽と缶入りホット飲料の国の国民だけでなく、全員が、つまりブラジル人でさえ、日本が勝って欲しいと思っているからだ。その理由は伝説的な人物であるジーコにある。」
そして、その後、この記事は、2??3分間隔で、まるで実況中継をしているかのように、この試合の経過を追ってい行くのです。
開始後34分の所は、何と
GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAL!
Japan
1 – 0 Brazil
ですよ。言わずと知れた玉田の先制ゴールの瞬間です。
どう考えても、この記者自身が熱烈に日本を応援しているとしか思えません。しかも、それが単にジーコのせいだとは思えないのです。
この記事は、最後のところで、ブラジルのできはこれまでの試合の中で最高だった、と記しており、いかにも日本は不運だったと言わんばかりです。
4 感想
私は、韓国と英国の良識ある人々は、世界で最も日本を良く知り、日本が好きな人々であると思っていますが、皆さんもそう思われたのではありませんか。
とまれ、ジーコを監督に選んだ日本サッカー協会は間違っていなかったようですね。
ありがとうジーコ!