太田述正コラム#1317(2006.6.25)
<捕鯨再論(続々)(その3)>
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注目すべきは、この決議が、「食糧安全保障と国家発展のために資源を利用することに関する主権に係る政府の政策を動かそうとして、国際的なNGO諸団体のいくつかが脅しを用いた利己的なキャンペーンを行っていることは認められず、これを排斥する」と述べていること
(http://www.slate.com/id/2143986/。6月20日アクセス)です。
これは単なる修辞ではなく、今次IWC開催国のセント・キッツ・・この決議の共同提案国でもある・・は、捕鯨禁止を唱えるNGOに対し、断固たる対応を行いました。
グリーンピースが、日本の捕鯨船の進路妨害をして衝突事件を起こした船でセント・キッツの港に入港しようとしたところ、セント・キッツ当局は安全保障上の理由でこれを拒否したため、この船は洋上を余儀なくされました。
このグリーンピースが、上記決議が採択された翌日の20日に、この船から船外機付きのゴムボートで砂浜に乗り付け、日本等による毎年2,000頭近い捕鯨に抗議して鯨の墓標に見立てた(このゴムボートで運んできた)プラカードを砂浜に立てようとした時には、催涙ガスや機関銃を携行した警察隊がグリーンピース関係者10名・・その大部分は空港から正規に入国していた・・を公務執行妨害で逮捕し、密輸品とみなされたプラカードを踏みつけて壊しました。
逮捕の理由を聞かれると、警察の責任者は、「ゴミが浜に打ち上げられたので、集めてゴミ廃棄場に投棄したまでのことだ」と答えたものです。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-whales21jun21,1,6910440,print.story?coll=la-headlines-world(6月22日アクセス)による。)
4 逆転勝利の背景
日本の外務省は無能でやる気がないかも知れないけれど、日本外交・・この場合は農水省が中心となった・・も結構やるじゃないか、と思われた方がおられそうですね(注6)。
(注6)農水省(水産庁)は、第一に、カリブ海島嶼諸国等に対し、漁業に係る援助を専門家も派遣して熱心に行うことによって捕鯨解禁陣営を増やしてきた
(http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/5088132.stm。6月19日アクセス)
し、第二に、科学的調査目的の捕鯨を次第に増やすことによって補撃禁止陣営に圧力をかけてきたし、第三に、今次IWCでは、科学的調査目的の捕鯨に余り目くじらを立てるようなら、次回のIWCで、エスキモーによる少数の捕鯨に対するこれまでの日本側陣営の賛同を撤回する、と言明してゆさぶりをかけた。
遺憾ながら、必ずしもそうではありません。
日本の宗主国たる米国がブッシュ政権であり、捕鯨に係る日本の「独自」外交を黙認してくれていたからこそ、上記決議の採択に至った、というのが実態なのです(注7)。
(注7)日本が、(同じくIWC加盟国である)ノルウェーとちがって、商業捕鯨ができない立場に追い込まれたのは、宗主国米国の裏切りによることは、以前(コラム#766で)指摘したところだ。
ブッシュ政権は、米国の歴代政権中、最も科学を無視する政権であり、とりわけ環境問題に関心が薄いことでも知られています。
そうだとすれば、捕鯨問題は、環境問題(鯨類の保全)ではなく文化の問題(高等生物たる鯨を殺すなv.特定の食物の摂取を禁じるな)であるだけに、ブッシュ政権は一見、鯨が種類によっては増えすぎているという科学的知見など無視して、捕鯨禁止をごり押ししそうに思えます。
しかしそうはならない理由があるのです。
第一の理由は、対テロ戦争に大わらわのブッシュ政権にとって捕鯨問題は、(対イラン経済制裁等を含め、)対テロ戦争遂行に当たって何でも言うことを聞く保護国日本が、米国にとって優先順位が極めて低い捕鯨問題で「独自」外交を行うことくらいは大目に見ることにしたからです。
第二の理由は、石油業界寄りのブッシュ政権が、鯨に苦痛を与えているとして、エアガンによって地震波を起こして石油や天然ガスの埋蔵場所を探知することを禁止しようとしている各種自然保護団体を煙たく思っているからです。しかもブッシュ政権としては、エアガンの使用禁止は、潜水艦探知機器であるアクティブ・ソナーの使用禁止にまで発展しかねない、と懸念しているふしがあるのです。
(以上、特に断っていない限り
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-whales22jun22,1,24561,print.story?coll=la-headlines-world(6月23日アクセス)による。)