太田述正コラム#1333(2006.7.5)
<テポドン・防衛庁不祥事・額賀防衛庁長官(その1)>
1 始めに
北朝鮮が弾道弾を発射してくれたおかげで、朝日の記事の余波から少し解放されたのはいいのですが、今度は、北朝鮮も日本も8年前から何も変わっていないな、という焦燥感に襲われました。
2 北朝鮮のテポドン発射
(1)今回の発射
北朝鮮は、7月5日(米国東部標準時官では、最後の1回を除き、独立記念日の7月4日)、3時32分、4時4分、4時59分、7時13分、7時半、8時17分、17時22分の7回にわたってロシア近くの日本海公海上に向けて弾道弾を発射しました。
三番目に発射された弾道弾は、先月来何週間にもわたって、いつ発射されるのかと注目されていたテポドン2(Taepodong 2)(注1)でしたが、発車後約40秒で燃料点火システムの不調で爆発したと見られています。
残りの6発は、射程の短いスカッドとノドンでした(注2)。
(以上、特に断っていない限り
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20060706k0000m010067000c.html(どちらも7月5日アクセス)による。)
(注1)テポドン2だけは北朝鮮北東部の舞水端里から発射。その他は南東部沿岸から発射。
(注2)北朝鮮は、約800基の弾道弾を保有している。うち、長射程のものとしてテポドン1(Taepodong-1)、中射程のものとして、約600基のスカッド(Scud。ソ連由来)及び約200基のノドン(Rodong)があり、短射程のものとしてKN-02がある。スカッドには射程約300kmのもの(Hwasong-5)と約500kmのもの(Hwasong-6)がある。ノドンの推定射程は1,000??1,400kmであり、KN-02は100??120kmだ。また、テポドン1は2段式(ノドンの上にスカッド改を乗せたもの)であり、推定射程は2,000??2,300だ。テポドン2も2段式(新大型ロケットの上にノドンを乗せたもの)であるところ開発中であり、推定射程は3,500??4,300kmだが、エンジンの改良等により、5,000??7,000kmあるいはそれ以上への射程延伸が可能とも言われている。テポドン1と2はいずれも固定発射台から発射され、発射準備に時間がかかる。それ以外の弾道弾は移動式でしかも発射準備に余り時間がかからないので、発射の事前探知は困難だ。以上の弾道弾は液体燃料を試用するが、北朝鮮は、固体燃料を使用する推定射程2,500??4,000kmのテポドンXを開発中と言われる。なお、北朝鮮は、核弾頭をこれら弾道弾に搭載できるように小型化することには成功していないと見られている。(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/07/04/AR2006070400729_pf.html、及びhttp://www004.upp.so-net.ne.jp/weapon/taepodong.htm(どちらも7月5日アクセス))
(2)1998年の発射
北朝鮮は、8年前の1998年8月31日、テポドン1をベースとし、それに人工衛星と固体燃料ロケット・モーターを搭載した第3段を追加した、SLV(Satellite Launching Vehicle.衛星打上げ用ロケット。ただし、日本政府見解は弾道ミサイル)を発射したところ、第一段は日本海に落下、第二段は日本列島上空を横切った後、太平洋に落下し、第三段は壊れて同じく太平洋に落下しました。 (http://www004.upp.so-net.ne.jp/weapon/taepodong.htm上掲、及び
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/07/04/AR2006070400649_pf.html(7月5日アクセス))
(3)焦燥感
北朝鮮側から見れば、方やテポドン1単独発射、方やテポドン2とノドンやスカッド発射という違いはあっても、どちらもテポドンについて言えば、発射の結果が失敗に終わった点は同じ・・テポドン2の方が1より技術的には高度だが、失敗の程度は2の方が甚だしい・・ですし、テポドンの開発・発射が、核開発・保有を相まって、米国や日本を交渉に引きずり出すための弱者の恐喝であった点も同じです。
日本は、1998年の発射を契機として偵察衛星保持に踏み切るとともに米国と連携してミサイル防衛に乗り出し(典拠省略)、今回の発射を契機として対北朝鮮経済初制裁に踏み切りました(毎日前掲)(注3)。
(注3)日本政府は、2002年9月の日朝平壌宣言における「ミサイル発射のモラトリアム(凍結)の継続」違反と判断した。
しかし前回、北朝鮮に対する抑止力・・つまりは軍事攻撃力・・保持に踏み切ろうとはしなかったのと同様、今回も日本政府は、抑止力保持に踏み切る気配はありません。
8年も経ったというのに依然、日本の対北朝鮮安全保障政策は、いわゆる専守防衛のラインから一歩も出そうになく、従って、米国に日本国民の安全をゆだねる、という状況は今後とも「堅持」されることになりそうです。