太田述正コラム#1389(2006.8.27)
<果たして韓国は豊かさで日本を凌駕できるか(その1)>
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128番目の有料購読申込者のメールをご紹介します。
太田様、
大変遅くなりましたが、有料購読させていただきたくメールいたしました。
自分は教育に携わっているひよっこです。英国留学とインド滞在を経て、経済政策よりも、民族の文化的特性こそが、その民族が属している国の産業の特徴と成長に直接多大な影響を与えるのではないか、と考えるに至りました。その考えに基づき、国の義務教育のデザインにおいてはまず、抱えている民族の文化的特徴を 分析し、どういった産業、working style やsystemにむいているか把握。その上で、その国の現在の経済的特徴及びこれからの世界経済の推移を考慮し、うまく長所や短所を成長させる教授法とカリキュラムを組むべきだと考えております。
これを実証(間違っていれば無論修正しますが)、そして出来うるならばその結論に基づき将来実行するために本来の教育の分野(ある一分野における教授法)だけでなく、民族文化論、経済学を時間を作って必死についばんでいる自分にとって太田様のコラムはまさに渡りに船。いつもたくさんの有益な示唆と情報に手を合わせて拝む思いでした。いままで本当にありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします。
先生のますますのご活躍を期待しております。
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1 始めに
支那の勃興の陰に隠れて忘れられがちですが、日本にとって最も近い隣国である韓国経済は引き続き堅調に伸びています。
8月18日に、英シェフィールド大学と米ミシガン大学の共同プロジェクトが行った、紀元元年・1500年・1900年・1960年・1990年の購買力平価による各国(現在の領域)のGDPと一人あたりGDPの推計/実績値と、2015年における予想値が発表されました
(http://www.sasi.group.shef.ac.uk/worldmapper/index.html
。8月27日アクセス)。
このように2,000年のスパンで見ると、若干の上下はあっても、支那とインド亜大陸と西欧は一貫して経済大国であったことが分かります。支那やインド亜大陸や西欧ほどではないけれど、日本だってそうです。
さて、この資料で私が面白いと思ったのは、英国と日本は、どちらも経済大国(西欧と支那)の縁辺に位置しつつ、それぞれにとって最も近い隣国の一つであるアイルランドと韓国(朝鮮半島)を、片や何百年にもわたって支配し、片や半世紀弱にわたって支配したわけですが、アイルランドが英国から独立する直前であるとともに、逆に日本が韓国を支配する直前でもある1900年の時点では、英国と日本の一人あたりGDPは、それぞれアイルランドと韓国をかなり上回っていた(注1)というのに、2015年の予想では、どちらも逆転している(注2)ことです。
(注1)英国:4,492(1990年ベースの米ドルによる購買力平価。以下同じ)、アイルランド:2,736、日本:1,180、韓国820。
(注2)英国:27,624、アイルランド:34,677、日本:35,694、韓国:38249。
もっとも、2000年以上前の紀元元年の時点では、英国はアイルランドと同じで、日本は韓国を下回っていた(注3)のですから、2015までにそれぞれ本来の姿に戻る(注4)、というだけのことなのかもしれません。
(注3)英国:451、アイルランド:451、日本:402、韓国:452。韓国は当時の「国」の中で6番目に高い。ちなみに、紀元元年において最も豊かな(一人あたりGDPが高い)「国」はちょっと意外な感じがするが、バングラデシュ(454)であり、インド(453)がそれに次ぐ。
(注4) 英国は現時点で既にアイルランドに追い抜かれている(コラム#632。ただし、このコラムで出てくる一人あたりGDPの値は、年間平均為替レートを使って計算されている)。
2 韓国での議論
韓国では、2015年には一人あたりGDPで韓国は日本(9位)を上回るだけでなく、米国(7位。38,063)さえ上回る世界6位の豊かな国になる、と予想されたとして話題になっています(注5)
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/08/26/20060826000023.html
。8月27日アクセス)。
(注5)奇しくも、2,000年ちょっと前と同じ順位に戻るわけだ。もとより、紀元元年の一人あたりGDP推計値にどれほどの信憑性があるのか、という問題はある。
ただし、2000年代に入ってから韓国の経済成長率が年平均4%台に低下しており、高齢化の進展もあることから、このような予想は過大評価だという声が韓国では出ています
(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/08/26/20060826000024.html
。8月27日アクセス)。
(続く)