太田述正コラム#1444(2006.10.12)
<北朝鮮核実験か(続々)(その2)>
私は、ブッシュ政権は、北朝鮮に対する限定的武力攻撃を、武力攻撃が国際法的に明確に認められる状況になるまで待つとみています。
ブッシュ政権として、対イラク戦の時の失敗を、(対イラク戦の時と違って韓国等の周辺国にコラテラル・ダメージが生じる可能性があるだけに、なおさら)繰り返すわけにはいかないからです。
武力攻撃が国際法的に明確に認められる状況とは、国連安保理の決議によっていかなる国連加盟国にも武力行使が明示的・黙示的に認められるに至った状況、または、米国による自衛権の行使としての武力行使が認められる状況のことです。
前段がクリアされるように、米国は、現在国連安保理で努力中です(注3)。
(注3)米国は、経済・外交・軍事制裁について規定する国連憲章7章に基づく決議を求めているが、中共は、経済や通信分野の制裁に限定した「7章41条に基づく決議」にトーンダウンしようとしている
http://www.sankei.co.jp/news/061012/kok003.htm
。10月12日アクセス)。
後段がクリアされるのは、北朝鮮が米軍に武力攻撃をしかけてきたり、北朝鮮が韓国や日本(韓国や日本の米軍基地を含む)に対して核恫喝を行ったりした場合です。
米国が提案している安保理決議案では北朝鮮船舶の臨検が盛り込まれており、このような決議が仮に成立すれば、米軍は事実上の北朝鮮の海上封鎖ができるようになります(産経上掲)。
実際に海上封鎖が行われるようなことがあれば、たまらず北朝鮮から、米軍の艦艇等に武力攻撃が加えられたり、韓国等に対して核恫喝が行われたりする可能性があります(注4)。
(注4)北朝鮮外務省は11日、「米国が我々に圧力を加えるなら宣戦布告とみなし物理的対応措置をとることになる」と声明した(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/10/12/20061012000004.html
。10月12日アクセス)。
前段がクリアされれば、その後のしかるべき時期に、そして後段がクリアされればただちに、米国は必ず北朝鮮に対し、限定的武力攻撃を行うだろう、というのが私の考えです。
この限定的武力攻撃は、北朝鮮の核能力の壊滅に藉口して行われるところ、その真のねらいは、全面的武力攻撃によらずして、北朝鮮に体制変革ないし体制崩壊をもたらすところにあります。
ブッシュ政権があえて武力行使への言及を避けているのは、安保理で希望どおりの内容の決議をいつかの時点で可及的速やかに成立させることを期しているからこそ、それを阻害しかねない波風を立てまいとしているのでしょう。
もっともこれは、北朝鮮の最大の庇護者である中共の抵抗によって希望どおりの内容の決議が成立しなければ、米国は限定的武力攻撃を行わない、ということを意味します。
では、中共の抵抗を諦めさせるにはどうしたらよいのでしょうか。
ここで、フラムの提案が意味を持ってくるのです。つまり、フラムは、ブッシュ政権に成り代わり、対北朝鮮制裁決議で抵抗を続けるようなことがあれば、ミサイル防衛システムの整備に力を入れて中共の核を無効化するぞ、また、日本を(集団的自衛権行使に踏み切らせて)NATOに加盟させ、更に核武装をさせるぞ、と中共を恫喝しているわけです。
ブッシュ自身の発言で以上のことを検証してみましょう。
11日にホワイトハウスで行った記者会見で、ブッシュは次のように述べています(
http://www.nytimes.com/2006/10/11/washington/11transcript-bush.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
。10月12日アクセス)。脚注は私のコメントです。
昨年9月5日の<六カ国協議の>共同声明において、北朝鮮は全ての核兵器と現存する核計画を放棄する・・ことを約束した。<これに対し、>・・米国は・・北朝鮮を攻撃する意思のない旨確認(affirm)した(注5)。・・・
(注5)このくだりを、「ブッシュ大統領「米国は攻撃意思ない」」、という見出しで報じた毎日新聞(
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/news/20061012k0000m030162000c.html。10月12日アクセス)は、誤報に近い。北朝鮮が共同声明違反を犯した以上、米国もまた、この共同声明には拘束されないことになるはずだからだ。そのことは、ブッシュの以下の諸発言から明らかだ。
米国は外交を引き続き追求するが、米国は<同時に、>この地域におけるわれわれの友人達と米国の国益を北朝鮮の脅威から守るためのあらゆるオプションを用意している。例えば、北朝鮮の挑発行為への対応として、われわれは、同盟諸国との間で防衛協力を強化するつもりだ。その中には、北朝鮮による侵略から守るためのミサイル防衛に関する協力・・が含まれる(注6)。・・・
(注6)フラムの提案の一つが顔をのぞかせている。
私は、米国と北朝鮮の人々が、・・<2003年に私が行った>「北朝鮮が核兵器を持つことを看過することはない」・・<という>言明は今なお生きている、ということを理解することが極めて重要だと思う。・・・
<米>軍の最高司令官である私は、軍事力を用いる前にあらゆる外交的手段が試みられなければならないと信じている。そして、他の諸国がテーブルに座っている限り、外交は進捗を見せていると信じている(注7)。
(注7)中共(=「他の諸国」中の代表格)に強く協力を促すとともに、十分協力しなければ、爾後外交面で一緒にテーブルに座ることは出来なくなると脅している。
(続く)