太田述正コラム#1450(2006.10.15)
<北朝鮮核実験か(続x6)>

1 制裁決議採択

 北朝鮮制裁決議が採択されました。
 しかし、決議全文をまだインターネット上で得ることができない(ファイナンシャルタイムス電子版
http://www.ft.com/cms/s/10d5c8cc-5ad4-11db-8f80-0000779e2340.html(10月15日アクセス)に9月13日時点の草案が掲載されているのみ)ので、この決議の内容について論じるのは後日に回します。
 今回は、北朝鮮が核「保有」に至った軌跡を、米国との関係に限定して、ざっと振り返ってみることにしました。

2 北朝鮮の核「保有」への軌跡

(1)ブッシュ政権以前
 1950年に、朝鮮戦争の成り行きいかんによっては、原爆を使うこともあるかと聞かれたトルーマン米大統領は、「保有しているあらゆる兵器を使う」と答えました。
 1953年に、アイゼンハワー米大統領は、北朝鮮政府が朝鮮戦争を終結させるために真面目に交渉をしないなら、「われわれの兵器使用におけるあらゆる自己規制を止める」と発言しました。
 1957年には、米国は、韓国に核弾頭を搭載したマタドール(Matador)弾道弾を配備し、その後、長射程砲で撃つことができる核砲弾を非武装地帯付近等に配備しました。
このような米国の核の脅威に怯え続けた北朝鮮は、1965年にソ連から研究用原子炉を得て、今にして思えば、核保有に向けて第一歩を踏み出すのです。
 他方、カーター米大統領の時の1970年代末にようやく韓国から米国の核兵器の撤去が始まり、ブッシュ(父)米大統領の時の1991年にようやく撤去が完了します。
 ところが、クリントン米大統領の時の1994年、米国は、北朝鮮が核燃料棒からプルトニウムを抽出し、再処理する準備を進めていることを発見し、再処理をしたら武力攻撃をするぞと恫喝します。
 北朝鮮はやむをえず米国との間で、「合意枠組み(Agreed Framework)」を締結し、核開発の凍結を約束し、その見返りに石油や軽水炉の供与を受けることになりました。
 しかし、後から分かったことですが、北朝鮮は、プルトニウム核爆弾(長崎型)の開発は凍結したけれど、密かに濃縮ウラン核爆弾(広島型)の開発を継続したのです。

 (2)ブッシュ政権
 そこへ登場したのがブッシュ米大統領です。
彼は、大統領に2001年に就任して以来、一貫して北朝鮮の体制変革ないし体制崩壊を追求してきた、と私は見ています。
 その第一の根拠は、ブッシュ政権は、2002年に北朝鮮が濃縮ウラン核爆弾を開発しようとしていることが露見した時、「合意枠組み」を維持しつつ、北朝鮮と交渉しようとはせずに、「合意枠組み」そのものを廃棄してしまったことです。
 そして、北朝鮮の直接交渉要求を拒絶し、六カ国協議の場での多国間協議にのみ臨むことにし、やむなく北朝鮮もこれに同意した結果、合意の早期成立は困難になりました。
あせった北朝鮮は、核開発を急ぐこととし、凍結され、大幅に遅延させられていたプルトニウム核爆弾の開発を再開します。
 それでも、2005年9月になって、ようやく六カ国協議の場で、北朝鮮は核開発を放棄する、米国は北朝鮮の体制変革を試みない(武力攻撃はしない)、というラインで六カ国が合意し、細部がつまったら正式合意が成立する運びとなりました。
 これをぶちこわしたのが、その直後に米国によって発動された対北朝鮮金融制裁であり、これが第二の根拠です。マカオの銀行に対する、北朝鮮による資金浄化・通貨偽造に使われている口座の凍結要求に始まる金融制裁は、北朝鮮の正常な対外経済取引まで困難にし、北朝鮮は六カ国協議のボイコット宣言で応えます。
 (以上、事実関係は
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/14/AR2006101401068_pf.html
http://www.nytimes.com/2006/10/14/opinion/14wolfsthal.html?pagewanted=print
、及びhttp://www.guardian.co.uk/korea/article/0,,1922444,00.html
(いずれも10月15日アクセス)による。)
 その後は、北朝鮮は全力で核開発を急ぎに急ぎ、今年7月にはテポドン2を発射するも失敗し、10月にはプルトニウム爆弾の核実験を行うも、失敗した可能性が高い、という次第です。

 (3)まとめ
 このように、北朝鮮は、朝鮮戦争当時から、核保有の願望を抱き、1965年から一貫して核保有計画を進めてきたのに対し、米国は、ブッシュ政権になってから、一貫して北朝鮮の体制変革ないし体制崩壊による北朝鮮がらみのあらゆる問題の抜本的解決を追求してきた、と私は見ているのです。
 今回の安保理決議の採択により、この米朝が真正面からぶつかったガチンコ勝負は大詰めを迎えつつある、といったところです。