太田述正コラム#1486(2006.11.4)
<台湾での大スキャンダル(その1)>
1 スキャンダルの概要
台湾が大きく揺れ動いています。
台湾の高等法院検察署(Taiwan High Court Prosecutors’ Office。検察当局)は3日、総統府の外交機密費(state affairs fund)を不正流用したとして、陳水扁(Chen Shui-bian。)総統(2000年に就任。二期目の残任期は2008年5月まで)の呉淑珍(Wu Shu-chen)夫人と馬永成前総統府副秘書長ら4人を横領、文書偽造、ないし偽証の容疑で起訴しました。
検察当局は、陳総統の関与も認め、総統は憲法で不起訴特権があることから起訴は免れるものの、退任後の起訴を示唆しています。
検察当局によると、呉夫人には、総統夫人の立場を利用し、他人名義の領収書を使って、2002年7月から今年3月までの間、機密費から1480万元(約5,300万円)を横領し、陳総統ともども、自分達の子供や孫用のダイヤの指輪等の贅沢品購入等に使った容疑と、この関連で、デパートの商品券購入にともなう1195万元(約4,300万円)分の領収書を文書偽造した容疑がかけられています。
ただし、陳総統は、事柄の性格上、使途を全面的に明かすわけには行かないが、個人的目的のためにはこの金は一切使われていないと抗弁しています。
昨年には陳総統の上級補佐官の一人が汚職の嫌疑をかけられ、また、複数の閣僚についても、汚職の捜査が進行中です。
今年の夏には、陳総統の義理の息子がインサイダー取引容疑で起訴されています。
また、呉夫人については、2003年と2004年に累次にわたって、法律で求められている個人財産開示を応じなかったことがケチのつき始めで、今年に入ってからは、某デパート・チェーンからそのチェーンの商品券の贈答を受けた疑惑も持ち上がり、この話は立件には至らなかったものの、今度は、オーストラリア在住の女性経営者が、呉夫人の親友がこの経営者の会社の領収書をかき集めていて怪しいという告発があり、今年7月に台湾政府の監査省(ministry of audit)が調べた結果問題ありとの結論に達したため、検察当局が捜査を開始し、今回の起訴に至ったものです。
台湾の経済状況が思わしくなく、また、中共との関係改善の兆しが見えず、また上述した一連の腐敗疑惑・報道もあっって、陳総統の支持率は20%を切っていたところへ、この起訴が追い打ちをかけ、陳総統は苦境に陥っています。
今年に入ってから既に6月と10月の二度にわたって陳総統不信任(recall)決議案を立法院に提出した第一野党の国民党は、改めて陳総統に辞任を求め、辞任しなければ三度目の不信任決議案を提出するほか、総統弾劾(impeachment)決議案の提出も辞さない構えです。
今度不信任決議案や弾劾決議案が提出されれば、これまでの不信任決議案には白票を投じてきた、民進党より過激な台湾「独立」推進派政党たる台湾建国同盟も賛成票を投じる意向を表明しており、民進党から12名賛成票を投じる者が出れば、賛成票が三分の二を超えて、不信任決議または弾劾決議が成立する可能性が出てきました。
仮に弾劾決議が成立すると、国民投票にかけられ、罷免を是とする者が過半数を占めれば、総統は罷免されます。
台湾領の澎湖(Penghu)諸島を訪問中であった副総統の呂秀蓮(Annette Lu)女史は、急遽台北に召還されました。
(以上、
http://www.sankei.co.jp/news/061104/kok002.htm、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6113480.stm、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/11/03/AR2006110300129_pf.html、
http://www.nytimes.com/2006/11/04/world/asia/04taiwan.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print、
http://www.guardian.co.uk/international/story/0,,1939173,00.html、
http://www.ft.com/cms/s/ebb035ce-6b17-11db-bb4a-0000779e2340.html、
http://www.ft.com/cms/s/4722d11c-6b6f-11db-bb4a-0000779e2340.html、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/11/04/2003334785、
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2006/11/04/2003334761、
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2006/11/04/2003334733、
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2006/11/04/2003334732
(いずれも11月4日アクセス)による。)
一体われわれは隣国でのこのスキャンダルをどう受け止めればよいのでしょうか。
(続く)