太田述正コラム#1490(2006.11.6)
<人種と知能(その1)>
1 始めに
言論の自由を尊ぶ英国社会においても、人種差別的言論だけは別のようです。
これは、英国が、人種差別を厭い、人種的・民族的多様性に高い価値を見出してきた社会だからこそでしょう。
その英国における、昨年から今年にかけての、人種と知能との関係に関する議論をフォローしてみたいと思います。
2 前史としての米国での議論
その前に、1994年から米国で起こった議論を振り返っておく必要があります。
この年、心理学者のハーンスタイン(Richard Herrnstein)と政治学者のマレー(Charles Murray)が共著、The Bell Curve, Free Press を上梓したことをきっかけに米国で大議論が巻き起こります。
ベルカーブというのは、知能指数が正規分布をなしていることからとられたタイトルです。
彼らは、知能指数(IQ)が両親の社会経済的地位よりもはるかにその子供が社会に出てから到達する社会経済的地位と相関が高い、と指摘し、米国の黒人は白人より平均的にIQが1標準偏差ほど低く、これが黒人の社会経済的地位の低さにつながっているとし、米国の福祉政策の多くは、黒人人口を増やす働きをしているので廃止すべきだ、と主張したのです。
米国社会の中ではもちろん、学界の中でも大議論になったのですが、学界における議論においては、彼らにおおむね軍配が上がったと言ってよいでしょう。1996年に米国政府が、母子家庭への生活扶助プログラムに大なたを振るったのは、この本のせいだ、とも言われています。
(以上、
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Bell_Curve
(11月6日アクセス。以下同じ)による。)
3 英国での昨年の論議
英国のリーズ(Leeds)大学のロシア・スラブ学講師のエリス(Frank Ellis。元SAS隊員という変わり種)は、昨年、要旨以下のような議論を同大学の学生新聞で開陳したため、学生達やメディアで叩かれ、大学当局は彼を休職とし、エリスは自主退職に追い込まれたのです。
人種(race)は存在しないという議論があるが、肌の色が違うのは歴然たる事実だ。だとしたら、知能も違っていても不思議ではない。
1970年代末のデータによれば、サハラ以南のアフリカの人々の平均IQは70だ。米軍ではIQ80未満は兵士として採用しない。単純な命令も守れないからだ。IQ70となると、ほとんど智恵遅れと言ってよい。これでは技術的に高度な文明を維持することはできない。アフリカが信じがたいほどの腐敗や愚行、迷信や蛮行の世界であるのは当然だ。エイズが蔓延するのは、エイズの恐ろしさが理解できなかったり、仮に理解できても性的衝動を抑制できないからだ。黒人は自分達で、文字も数学も生み出すことができなかった。
このような黒人の移民を英国が受け入れて何のメリットがあるのか。こんな「多様性(diversity)」に価値などあるわけがない。英国が破壊されるだけだ。連中をかき集めて、故郷に送り返すべきだ。
エリスは、ロシア・スラブ学の教師としては極めて優秀で、しかも講義中にこんな話をしたわけではなかったのですが、専門外の分野に関し、ポリティカル・コレクトネスに全く配慮しない議論を行ったために、退職を余儀なくされたわけです(注1)。
(以上、
http://devilskitchen.blogspot.com/2006/03/frank-ellis.html、
http://commentisfree.guardian.co.uk/neil_clark/2006/03/the_correct_decision.html、
http://commentisfree.guardian.co.uk/khadijah_elshayyal/2006/03/what_kind_of_democracy_do_you.html、
http://www.guardian.co.uk/race/story/0,,1738569,00.html、
http://education.guardian.co.uk/higher/news/story/0,,1723806,00.html
による。)
(注1)ごく少数のエリス弁護者のうちの一人が引用しているデータを紹介しておこう。
英国の2004年の大学進学資格検定試験で5科目合格点をとった生徒は40.3%だったが、白人は40.9%、アジア系は41.5%、そのうち支那系は62.9%、インド系は54,1%、パキスタン系は30.8%、バングラデシュ系は32.1%、黒人は26.4%、うちカリブ海系は22.8%、更にそのうち男子は17%だった。
(続く)