太田述正コラム#12401(2021.11.21)
<三島由紀夫『文化防衛論』を読む(その6)>(2022.2.13公開)
「さて、守るとは行動であるから、一定の訓練による肉体的能力を備えねばならぬ。
台湾政府の要人が、多く少林寺拳法の達人であると私はきいたが、日本の近代文化人の肉体鍛錬の不足と、病気と薬品のみを通じて肉体に関心を持つ傾向は、日本文学を瘦せさせ、その題材と視野を限定した。・・・
⇒「政府の要人」と「近代文化人」を対比してどうなる、と言いたくなりますし、その「近代文化人」が突然「文学者」に矮小化されてしまっています。
無茶苦茶な文章です。
「文学者」に話を限定したとしても、紫式部(970から978年~1019年以降)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%AB%E5%BC%8F%E9%83%A8
は一体どんな肉体鍛錬をしていたと言うのか、と言いたくなります。
太田コラム読者ならば、紫式部は縄文的弥生人が出現する前の文学者で三島が語っているのは縄文的弥生人が出現してからの、つまりは日本文明が確立してからの文学者のことでは、というツッコミを入れて来るかもしれません。
では、どちらも肉体鍛錬をした形跡のないところの、商人でかつ浮世絵師兼戯作者であった、山東京伝(1761~1816年)、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E4%BC%9D
や、裕福な商家に生まれ勘当されて貸本屋の手代として生計をたて、やがて歌舞伎狂言作者となった河竹黙阿弥(1816~1893年)、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E7%AB%B9%E9%BB%99%E9%98%BF%E5%BC%A5
はどうしてくれるって話です。
(いくら「純文学者」の三島でも、戯作や歌舞伎狂言など文学ではない、なんて野暮なことは言わないでしょう。)
なお、三島は、ここで、日本の新興武道である少林寺拳法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%91%E6%9E%97%E5%AF%BA%E6%8B%B3%E6%B3%95
という言葉ではなく、(少林寺拳法と同様、福建少林寺由来ではあるところの、)白鶴拳(はっかくけん)という言葉を用いるべきでした。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%B6%B4%E6%8B%B3 (太田)
民族主義とは、本来、一民族一国家、一個の文化伝統・言語伝統による政治的統一の熱情に他ならない。
近代的国家としての統一を未だ知らないヴェトナムの民族主義はそのようなものであるし、又、アメリカの黒人問題は、終局的には「黒いアメリカ」黒人共和国を目指しており、この逆アパルトヘイトからは白人は駆逐さるべく、かれら黒人は決して、現在の全アメリカ国民を統合する国家を目ざしているのではない。」(41、45~46)
⇒民族主義(ナショナリズム)に「近代国家」も「前近代国家」もないでしょう。
1900年に清で起こった義和団の乱は、まぎれもなく、(漢人民族主義ならぬ)支那民族主義の産物でした
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%A9%E5%92%8C%E5%9B%A3%E3%81%AE%E4%B9%B1
し、そもそも、いわゆるベトナム戦争(1965~1975年)は、対仏の第一次インドシナ戦争の延長たる第二次インドシナ戦争であったところの、ヴェトナム民族主義に立脚した植民地独立運動の産物です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E6%88%A6%E4%BA%89
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%B8%80%E6%AC%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%B7%E3%83%8A%E6%88%A6%E4%BA%89
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%B7%E3%83%8A%E6%88%A6%E4%BA%89
また、三島の米黒人問題への理解度は絶望的なレベルであり、公民権運動の中に黒人の分離独立的要素を見出すことはできません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E7%B3%BB%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E4%BA%BA%E5%85%AC%E6%B0%91%E6%A8%A9%E9%81%8B%E5%8B%95
今は丸くなったところの、カルトのネーション・オブ・イスラム(Nation of Islam, NOI)がかつて掲げた教義においてすら、「白人に対する民族 (ネーション) としての黒人のアイデンティティを主張し・・・白人社会への同化を拒否し<た。(注5)>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%A0
だけだったというのに・・。(太田)
(注5)「NOI は Black Muslims と呼ばれ、公民権運動によって権利向上を目指していた黒人を含め、アメリカ社会全体から過激派や分離主義者と見られることが多かった。」(上掲)
(続く)