太田述正コラム#1493(2006.11.7)
<台湾での大スキャンダル(続)>
1 辞任しなかった陳水扁
台湾の陳水扁総統は5日、今回の夫人らの起訴は、台湾のイメージを損ない、社会を動揺させたと謝罪した上で、自分は潔白であって辞任しないが、起訴された夫人(注1)が第一審で有罪となったら辞任する、とTVで表明しました。
(注1)陳水扁夫人の呉淑珍は、陳が総統になるまで内助の功を大いに発揮したことは衆目が認めるところだが、総統になってからは、人事等を含め政治に口を出しすぎるという評判もある。夫人は、裕福な家庭に1952年に生まれた。彼女は貧しかった陳と大学時代に知り合い、親の反対を押し切って1975年に結婚した。夫人は、弁護士になった陳に台湾民主化運動に参加するように促し、陳は、弾圧を受けていた(後に民進党の党首になる)人物の弁護を引き受けたことから始まり、次第に政治に関与するようになった。1985年には夫人は、トラックに轢かれて下半身不随になり、爾後車椅子生活を余儀なくされているが、これは暗殺未遂事件であったと考えられている。その直後、陳は、民主化シンパの雑誌に書いた記事のために一年間服役させられたが、その間に夫人は立法院選挙で当選し、1987年に出獄した陳は、その後1989年に陳自身が立法院議員になるまで夫人の秘書を務めた。 (
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2006/11/06/2003335062
。11月7日アクセス)
総統は、80分間にわたる放送中、北京官話ではなく、ほとんどを台湾語で通し、「独立」派としての姿勢をアピールしました。
(以上、特に断っていない限り
http://www.asahi.com/international/update/1105/015.html、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/11/05/AR2006110500301_pf.html、
http://www.ft.com/cms/s/7d67e814-6d01-11db-9a4d-0000779e2340.html
(いずれも11月6日アクセス)による。)
2 陳水扁の弁明
総統は、国家安全保障上の理由から国家機密に係る情報を検察当局に開示するわかにはいかない、とし、5年間に使った外交機密費4,200万台湾ドルはロビイスト活動をしている企業や中共の民主活動家達等に支払われているところ、そのうち、領収書のあるのは1,200万台湾ドルだけで、残りの3,000万台湾ドルは領収書がない(注2)し、領収書があるうちの、台湾のエージェントであるA氏のケースでも、A氏が誰かを明らかにすると中共当局がこの人物を逮捕する危険性があるので名前は明かせないと述べました。
(注2)そもそも、機密費に領収書があるとかないとか、その領収書が本物とか偽造とかいった話が出てくること自体、私には理解できない。そもそも、機密費とは、領収書が得られない用途に使う資金であるはずだからだ。(太田)
総統が強調したのは、彼には外交機密費を横領する動機がない、という点です。
検察当局は総統が5年間で1,480万台湾ドルを横領したとしているのですが、総統は、就任時点から、俸給を二分の一に減額しており、このことでこれまでに4,400万台湾ドルも納税者の負担を軽減しているし、李登輝前総統の時代には1994年から2000年にかけて1億1100万台湾ドルも使った奉天(Fengtien)機密費があったが、この機密費も當陽(Dangyang)機密費も国庫に返戻したとし、そんな自分がわずか1,480万台湾ドルを横領しようとするはずがなかろう、と述べたのです。
(以上、
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2006/11/06/2003335030
(11月7日)による。)
3 検察当局の主張
ここで、参考のために検察当局が3日に行った主張を記しておきます。
外交機密費からの支出がらみの領収書のうち29枚分のカネは呉夫人が受け取っている。夫人はそれで宝石・衣類・靴・サングラス等、計149万台湾ドルの買い物をしている。衣類については、夫人は買う前に試着しており、買った衣類のサイズは夫人のサイズにぴったりだ。夫人が買ったダイヤの指輪も夫人の指のサイズにぴったりだ。
総統に質したところ、領収書の何枚かは夫人に総統がギフトとして贈ったものの領収書だが、他の領収書は外国人のゲストや友人達の結婚式の際のギフトだということだった。しかし、総統も夫人も、ギフトが贈られた人物の名前を明かさなかった。
また、夫人がある夫人の友人から、542万台湾ドル相当の多数の領収書を受け取り、外交機密費から領収書記載金額に相当するカネを受け取っているところ、総統、夫人及び他の容疑者達は、これらの領収書はこの友人から受け取ったのではなくて、外国に在住して台湾のために秘密外交を行っているA氏から台北で受け取り、その時にA氏にカネを渡したと主張しているが、実際にはその時にはA氏は台湾にいなかったので領収書を渡せるはずがなかった。
最近では、夫人は検察当局による事情聴取を拒んでいる。
(以上、
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2006/11/06/2003335061
(11月7日アクセス)による。)
4 感想
やはり相当怪しいですね。
前回申し上げたように、陳水扁総統は、潔く辞任すべきだったと思います。