太田述正コラム#1495(2006.11.8)
<中共の朝貢外交>
1 始めに
中共は、このところ、空前の大国際会議が短期間に2つも開催しました。
一体われわれは、これをどう解すればよいのでしょうか。
2 二つの大国際会議
一つ目は、南部広西チワン族自治区の南寧で10月30日に開かれた、中共首脳と東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の首脳全員との会議です。この会議では、これら諸国に対する5000万米ドルの投資のほか、定期軍事交流、軍事技術相互支援や「東南アジア地域の非核化」条約の締結、など多方面にわたる協力を推進するという共同声明を採択しました。
二つ目は、11月3??5日に北京で開かれた「中国・アフリカ協力フォーラム北京サミット」なる中共首脳とアフリカ48カ国首脳(注1)との会議であり、この会議において中共当局は、「アフリカとの協力強化のための8項目」を発表しました。
(注1)台湾と国交を結んでいる5ケ国を除く全アフリカ諸国。
その中身は、これらアフリカ諸国に対し、2005年末に満期となる無利子借款約100億米ドルを全額帳消しにする(注2)、援助規模を2009年までに2006年の2倍に増額する、30億ドルの優待借款を提供する、これらアフリカ諸国の輸入業者に20億ドルの優待信用貸与を提供する、中共企業のこれらアフリカ諸国に対する投資を奨励するため50億ドル規模の「中国・アフリカ発展基金」を立ち上げる、これらアフリカ諸国の約1万5000人の人材に対し研修機会を提供する、などです。
(注2)2000年以降の6年間におけるアフリカ諸国に対する債務減免額13億6000万ドルの7倍以上相当。
一週間で約60人の国家首脳を一つの国に集め、会議を行うとともに集まった一人一人の首脳と個別首脳会談を行ったのは、世界の外交史上でも初めての出来事です。
3 欧米諸国の見方
欧米諸国は、中共がこの二つの会議を開催し、集まった首脳達に対し、支援の大盤振る舞いをしたのは、全ASEAN諸国と2010年までに自由貿易協定を締結して中共を中心とする経済圏を確立するとともに、これらアフリカ諸国の石油や鉱物資源を囲い込むことによって石油や鉱物資源の中共への供給を安定的に増大させていくための「まき餌」であり、これぞ新植民地主義であるという批判や、ガバナンスや人権の観点から欧米諸国が孤立化させようとしているアフリカの国にまで支援の手をさしのべるものだという批判、を投げかけています。
(以上、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/07/20061107000070.html
(11月7日アクセス)、及び
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/06/20061106000065.html、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/11/05/AR2006110500742_pf.html
(11月8日アクセス)による。)
4 私の見方
南寧での一つ目の会議の際には、個別首脳会談は、ASEAN諸国首脳一人一人が温家宝首相の宿舎を訪ねる形で行われました(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/07/20061107000070.html上掲)が、北京での二つ目の会議の際にも、個別首脳会談は恐らくアフリカ諸国首脳一人一人が胡錦涛国家主席や温家宝首相の所に赴く形で行われたと思われます。
また、北京での会議の期間中は、北京の街からいつもの交通渋滞が姿を消しましたが、これは50万台もの車が北京から閉め出されたためですし、北京の空はめずらしく青く透き通っていましたが、これは多くの工場が操業停止を命ぜられたためです(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6110476.stm
。11月8日アクセス)。北京の街は飾り立てられ、総員1,700人にもなるアフリカ諸国からの使節団は、歌と踊りの一大ショーでもてなされました(ワシントンポスト前掲)。
ここから思い起こされるのは、支那のかつての朝貢の際の光景です。
朝貢とは、周辺諸国の夷狄たちが、支那の皇帝の徳を慕って皇帝に貢ぎ物を捧げ、これに対して皇帝が回賜を与える形で行われました。
四夷から朝貢を受けることは皇帝の徳を示すこととされ、内外に向けて政権の正統性を示すことになるため、歴代の支那の皇帝は、貢物に対して数倍の価値の回賜を与えるとともに、朝貢にやってきた使節一行の個々の者に対しても褒賞金を与えるのが通例でした。
(以上、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E8%B2%A2
(11月8日アクセス)による。)
朝貢の復活は、共産党一党独裁体制を維持するために、なりふりかまわず儒教まで復権させた胡錦涛政権(コラム#995??997)が、いかにも考えそうなことです。
もとより、かつて朝貢が行われていた頃(
http://www.iuj.ac.jp/faculty/tshinoda/I.html
。11月8日アクセス)とは違って現在の支那は自給自足経済でなく、従って、胡錦涛政権は、ASEAN諸国やアフリカ諸国との経済的相互依存関係の増進を真に必要としていることは事実ですが、これら諸国への支援は、決して西側諸国が言うような「まき餌」ではないのであって、反対給付を必ずしも期待しない回賜である、ととらえるべきだと私は思うのです。