太田述正コラム#1509(2006.11.15)
<台湾での大スキャンダル(続々)>

 (本篇は、コラム#1493の続きです。)

1 始めに

 その後、台湾建国同盟が、陳水扁総統不信任案に賛成すると言っていた態度を豹変させた(
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2006/11/07/2003335170
。11月8日アクセス)ことから、総統は、一時、危機を脱したかのように見えましたが、このところ総統のお膝元からの批判が相次いでおり、更に野党第一党の国民党党首で台北市長の馬英九(Ma Ying-jeou。1950年??)にも疑惑が持ち上がり、台湾政局は混迷の度を一層深めています。

2 ノーベル賞受賞者の陳批判

 11月9日、台湾の前の中央研究院院長(Academia Sinica president)で台湾唯一のノーベル賞(化学)受賞者の李遠哲(Lee Yuan-tseh)が、学術会議出席のために滞在していたパリで書簡を公表し、「台湾の民主化以降最大の危機。陳総統と与党・民進党は『大我(公)』と『小我(自己)』の間で正しい選択をするよう求める」と、事実上の辞任勧告をしました(
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/archive/news/2006/11/12/20061112ddm007030137000c.html
。11月15日アクセス)。
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/11/11/2003335880
。11月12日アクセス)
 李は、2000年の総統選挙の時、開票12時間前に民進党の陳水扁支持を表明し、陳の当選に大きく貢献した人物です。

3 二人の立法院議員の辞職表明

 次いで13日には、台湾の立法院の民主党有力議員2人が、陳水扁の総統辞任を求め、自分達は議員辞職をすると表明しました。
 議員辞職する理由は、総統不信任投票が行われる際、民進党の統一方針に反して不信任票を入れることを避けたかったというものです。
 ただし彼らは、議員は辞職しても、民進党に思い入れがあるだけに、党籍は離脱しないとも表明しました。
(以上、
http://www.ft.com/cms/s/ea9766b8-7331-11db-9bac-0000779e2340.html
(11月14日アクセス)、及び
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2006/11/14/2003336241
(11月15日アクセス)による。)

4 馬の疑惑

 更に14日には、今度は馬英九が4時間にわたって参考人として検察当局の事情聴取を受けました。
 彼の容疑は、8月に民進党立法院議員達が告発したところの、台北市長としての特別資金(special allowance fund)月額34万台湾ドルのうち、その領収書を求められる半分の一部を、自分の体力トレーニングやペットの犬の購入費に流用し、その領収書を求められない残りの半分は着服した、という疑惑です。
 馬は、犬の件だけは認めていますが、流用額はごくわずかであり、しかも後で返済したと反論しています。
 このほか馬は、昨年国民党主席選挙に立候補して当選した際に、国政選挙の時以外はもらってはいけないのに政治資金を受け取り、しかもその残金を自分の私的財産に組み入れた、という疑惑も取り沙汰されています。
(以上、
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2006/11/15/2003336391
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2006/11/15/2003336424
(どちらも11月15日アクセス)による。)

5 コメント

 台湾の政局に対する、日本のメディアの取り扱いは、小さすぎると思います。
 台湾は日本の隣国であり、かつての植民地であり、しかも人口が2,304万人もあって、オーストラリアの人口2,026万人を大きく上回っているだけでなく、2005年の購買力平価による一人当たりGDPでも、台湾は27,500米ドルと、オーストラリアの31,600米ドルと比べて遜色がない先進国である(
https://www.cia.gov/cia/publications/factbook/geos/tw.html
https://www.cia.gov/cia/publications/factbook/geos/as.html
)ことを、大方の日本人は忘れているのではないでしょうか。