太田述正コラム#1514(2006.11.18)
<精神分裂のノムヒョン政権>
1 始めに
北朝鮮の核実験をきっかけにして、韓国では、親米派と親北朝鮮派の二派に修復不可能な形で分裂している状況が顕在化した、と日本経済新聞の鈴置高史編集委員は指摘しています(
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/suzuoki/index.html
。11月11日アクセス)。
面白いのは、ノ・ムヒョン政権内部においても、この二派に分裂している状況が顕在化したことです。
そのあたりを、例によって朝鮮日報電子版の記事や論説を援用してご説明しましょう。
2 精神分裂状況のノ・ムヒョン政権
(1)北朝鮮人権非難決議への「賛成」
北朝鮮人権非難決議案の採決が11月17日、国連総会第3委員会で行われ、賛成91、反対21、棄権60で採択されました(注1)。賛成票は昨年の84から7カ国増えました。この後決議は総会本会議に送られ、12月に正式採択される見通しです。
(注1)決議案は北朝鮮で「組織的、広範囲で深刻な人権侵害の報告が引き続きある」ことに深刻な懸念を表明し、その具体例として拷問や多数の政治犯収容所、「強制的失踪という形の外国人拉致」を挙げている。外国人拉致については「国際的懸念」や「他の国家の国民の人権を侵害」との言葉を新たに加え、昨年より非難のトーンを強めている。
ここで注目されるのは、2003年に初めてこの決議案が国連で上程されてから、昨年まで一貫して棄権してきた韓国が今回は初めて賛成に回ったことです。
(以上、
http://www.sankei.co.jp/news/061118/kok000.htm
。11月18日アクセス(以下同じ)。)
韓国は、本来の親米路線に復帰した観があります。
ところが、韓国政府は16日に国連総会北朝鮮人権決議に賛成の立場を表明した際に、「飢えから解放される権利など、北朝鮮住民の実質的な人権状況改善のため努力する」と表明し、また、統一部の当局者は「制裁や圧力を通じた解決ではなく、食糧・肥料の支援(注2)、脱北者収容など、実践的措置を重視する従来の政策を維持していく」と話しました。これは、国連の北朝鮮人権決議には賛成するが、北朝鮮に人権改善を促すための措置や圧力は取らないという意志を示したものであり、(ここまで、特に断っていない限り
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/17/20061117000051.html
)、金大中政権以来の親北朝鮮路線を堅持するというわけです。
(注2)ちなみに、韓国と中共の2カ国だけは、他の諸国とは違って、北朝鮮に対し、モニタリング条件のない食糧支援を行ってきた(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/17/20061117000047.html)。
これでは、精神分裂であると言わざるをえません。
(2)ノ・ムヒョン政権の奇妙な新布陣
ア 始めに
また、このほど、ノムヒョン大統領は、新しい外交通商相、国防相、及び統一相を指名したのですが、次期国防相と次期外交通商相・次期統一相とでは、世界観が180度違うように見えます。
イ 親米派の次期国防相
次期国防相に指名されている金章洙(Kim Jang-soo)陸軍参謀総長は、韓国議会での16日の人事聴聞会で、以下のように語りました。
「<ノ・ムヒョン大統領が先月「北朝鮮が核を保有しても南北の軍事均衡は崩れない」と発言したことについて、>同意しない。・・北朝鮮が核を保有したことにより、南北間の軍事力の均衡が崩れたのは確かだ。これは朝鮮戦争以来最大の安保上の危機<だ。>」
「<前職の国防相らが戦時作戦統制権の単独行使(米国からの奪還)に反対したことについて、大統領が、「過去に国防を担当された方々がまったく反対の話をされているのが歯がゆい」と発言しているところ、>すでに選択の段階は過ぎたが、彼らの心からの懸念を十分参考にすべきだ。」
「<大統領が、北朝鮮のミサイル発射問題に関し、「<ミサイルは>韓国に向けられたものではない」と語ったところ、米国・日本・北朝鮮のうちどの国が韓半島(朝鮮半島)情勢を脅かしているかと聞かれ、>北朝鮮。」
「<駐韓米国大使が韓国に大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)への参加を促した際に、与党の有力政治家が、「韓国の自尊心を傷つける発言」と反論し、ノ・ムヒョン政権がPSIへの参加をその後正式に見送ったことについて、>PSI参加国らの失望を解消し、同盟関係の回復を図るべきだ。」
イ 親北朝鮮派の新外交通商相
次期外相に指名された宋旻淳(Song Min-soon)大統領府統一外交安保政策室長(外務官僚)は、北朝鮮の核実験直後に、「米国は史上もっとも多くの戦争をした国である」と公開の場で述べました。これは韓国では、「米国に追従して北の核撤去を狙えば戦争になる」ことを示唆した発言と受け止められています。(日経前掲)
ウ 親北朝鮮派の新統一相
次期統一相に指名されている李在禎(Lee Jae-joung)民主平和統一諮問会議首席副議長(元新千年民主党議員)は、15日に講演会で以下のように語りました。
「ブッシュ政権は北朝鮮の体制崩壊を目指す政策を放棄しなければならない。」
また、韓国議会での17日の人事聴聞会では、以下のように語りました。
「<スパイ団事件、ドル札偽造、麻薬密輸など、北朝鮮による国際的な違法行為が次々と判明している、という議員発言に対し、>あなたが列挙した中で、確たる証拠があるものは一つもないと思う。」
「<北朝鮮では拷問、公開処刑、女性に対する人権侵害、外国人の拉致なども行われている、という、同じ議員の発言に対し、>民主化した国でも似たような経験を持っている。列挙された事項を検証する方法はない。事実なのか否か判断できない。」
「<北朝鮮の体制崩壊など事態の急変に備えてどう対応するのか、という議員質問に対し、>事態が急変した場合には国防部や他の部署が対処するのであって、統一部がすることではない。・・武力、経済力で勝る韓国への吸収統一など考えてはいけないし、その方向に進んでもいけない。」
「<北朝鮮に信教の自由はあると思うか、という議員質問に対し、>北朝鮮にも長老派やカトリックがあり、教会を建てて神の歴史を伝えようとしている点で、一つの歴史的な発展だと思う。」
「<北朝鮮の主体思想や先軍政治が、北朝鮮の国民や南北統一のために好ましくないと考えるか、という議員質問に対し、「それはそちら側の一つの統一理念だ。好ましいか否かを評価できるものではない。」
「<朝鮮戦争は北朝鮮の南侵によって起こった戦争なのか、韓国の北侵なのか、という議員質問に対し、「この場で定義して申し上げるのは適切ではない。」
(以上、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/18/20061118000028.html、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/18/20061118000024.html
による。)
エ 終わりに
親北朝鮮派の考え方がよく分かりますね。
それにしても、ノ・ムヒョン大統領は、よくもまあ、こんな精神分裂的な人事ができるものです。
こんばんは。
太田さんは『朝鮮日報』の記事を継続して読まれていると思うので、差し出がましいと思いますが、一言。
今次の国防部長官は本当に大丈夫ですか。「親米」なんでしょうか。戦時作戦統制権移譲に関してはどうですか。PSIに関しては? 彼が現在表明している立場を今後も守れますかね。
私が少し前に典拠にした記事は以下です。
『朝鮮日報』:
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/01/20061101000005.html
太田さんの引用された記事は、最新の、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/11/18/20061118000035.html
です。
後者の認識どおりに行ってほしいものですが。この20日前後での認識の変化はいかがですか。
私はこの方は全く信頼できません。前の国防部長官の方がはるかにまともでした。
いずれにしても、その他の国家情報部長官、外交通商部長官、統一部長官。まともな人間は一人もいません。韓国は北朝鮮と心中して「亡国」の道をひた走っていると思います。
隣国の人間としては、残念ですが、もはや仕方がないと思っています。
失礼ですけど、おっしゃる意味が分かりません。
同一人物でしょうが。
国防部長官の後任は金章洙(キム・ジャンス)氏だけですよ。私はこの方を問題にしているんです。
すっ呆けたことをおっしゃるのは止めていただきたい。
盧武鉉政権の最晩期の後任の主要閣僚、ろくでもない方々ですが、名前を挙げておきます。
国家情報院長:金萬福(キム・マンボク、60歳)
外交通商部長官:宋旻淳(ソン・ミンスン、58歳)
統一部長官:李在禎(イ・ジェジョン、62歳)
国防部長官:金章洙(キム・ジョンス、58歳)
> 記事の中で金さんが何名も登場するので、何か勘違いされているのではありませんか?
太田さん、でたらめなことは言わないでいただけませんか。私のコメントの趣旨は、『朝鮮日報』の評価が変わったことの方を問題にすべきなのでは、ということです。
それと、ブログのコメント欄にも同じコメントを出した方がいいと思います。これは当然だと思います。
失礼しました。
鳩山由紀夫はノ・ムヒョンの真似をしているわけではないが、早大の深川教授などによれば鳩山由紀夫の政策はノ・ムヒョンと似ていると言う。
例えば、米国との対等な関係の主張(反米体質)。経済成長よりも、税金の分配による格差是正(社会主義体質)。
鳩山由紀夫が自殺をすれば、さらにそっくりである。